不透明な北陸新幹線の延伸問題 環境影響評価の遅れは「工事強行のアリバイ作り」ではないのか
京都府にある「日本の原風景」
北陸新幹線大阪延伸工事の2023年度当初の着手が断念された。京都府内で環境アセスメント(環境影響評価)が遅れているためだ。新幹線工事の壁になっているのはどんな地域なのだろうか。
北地区の集落には、明治時代に建築されたかやぶき屋根の民家が約40棟並ぶ。芦生の森に入れば、数多くの動植物が生息する手つかずの自然が顔を出す。京都府中部に位置し、福井、滋賀両県と境を接する京都府南丹市美山町は、「日本の原風景」ともいえる場所だ。
空を見上げれば、イヌワシやクマタカなど環境省のレッドデータブックで絶滅危惧種になっている猛禽(もうきん)類が舞うことも。京都府北部を流れる由良川の最上流に当たる美山川は、清流とアユ釣りで知られる。
京都市のJR京都駅から電車と路線バスを乗り継いで2時間ほどの場所にこれほど豊かな自然が残されていることに驚かされる。
2地域で環境アセスメントに遅れ
そんな美山町に今、全国の注目が集まっている。
北陸新幹線の大阪延伸で美山町と京都市右京区の京北地区で環境アセスメントが遅れ、国土交通省や与党の整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT)が2023年度当初着工を断念したからだ。ルートは福井県敦賀市の敦賀駅から美山町、京都市などを経由して大阪市の新大阪駅へ向かう計画だ。
京北地区はコロナ禍で住民への説明が遅れたのが響いた。美山町は田歌地区住民が環境アセスメントの受け入れを保留して私有地への立ち入りを拒み、市民団体が10月に計画の撤回を求める約2万7000筆の署名を国交省へ提出するなど、反対運動が起きている。
北陸地方はもともと、首都圏より強い結びつきを京阪神と持っていた。北陸新幹線の大阪延伸には経済界を中心に早期着手を求める声が強いが、環境アセスメントを無視して着工することはできない。与党PTは
「今の段階ではとにかく丁寧、迅速に進めてほしいというしかない」
と苦慮している。