京都市営バス“倒産”寸前 「運転手が横柄」ではない、本当の赤字理由
観光客増で運転手不足
ただ、京都市営バスはコロナ禍以前から、危機に陥っていた。
2010年代に入ってから京都市営バスは、観光客の急増によって毎年22億~29億円の黒字を出していた。新車を投入して増便をしても、まったく間に合わず、市民の利用に困難を来し、「観光公害」という新たな問題が論じられるようになった。2009年に市営地下鉄が破綻寸前まで赤字が膨らみ経営健全化団体に指定されたのとは、真逆の繁栄であった(その後復活しかけた地下鉄だが、2021年には再び経営健全化団体になり現在に至る)。
一方で、京都市営バスは一部の黒字路線で、膨大な赤字路線を運営することが常態化していた。2017年度の決算をみると市バス全83系統のうち黒字は38系統。残りの45系統はすべて赤字となっていた。この時点での営業係数(100円の収入を得るのに必要な額)をみると、平安神宮や銀閣寺などの観光地をめぐる100号系統は営業係数53なのに対して、郊外の九条車庫前から太秦天神川駅をめぐる84号系統は、営業係数235という結果に。
京都市では、バスは観光客で混雑する上に時間も読めないことから、地元民はバスを避けて自転車利用のほうを好むとされているが、それは数字からも明らかだった。この一部路線の観光客の利用によって財政が支えられている状況の改善を目指し、市民のバス利用を促すために、京都市営バスでは2010年から、バス停や車内に営業係数を張り出して、利用を呼びかけていたものの、効果は出ていなかった。こうした中でコロナ禍前の2019年には、依然として観光客で大混雑しているにもかかわらず赤字へと転落している。
乗客が増えているにもかかわらず赤字となってしまった理由は、京都市営バスの経営体制が原因だ。京都市営バスというと「運転手が公務員だから横柄」という風聞をまことしやかに語る人がいるが、実際にはそうではない。
京都市交通局では、経営改革の一環で1999年度末から赤字路線を中心に民間事業者への委託運行を実施し、人件費を抑制する施策を開始した。この結果、バス事業の収支は改善するに至った。
当初この委託事業は、事業者側にも利用者数の多寡に関係なく一定の委託料を得ることができるというメリットがあった。事業は拡大され一時は、所有するバスの約半数を民間委託で運行するまでになっていた。
ところが、観光客の増加がこの経営体制を崩壊させた。全国的にバス運転手が不足したことで、各社が委託から撤退を始めたのである。2018年度末で66台を委託していた京阪バスが段階的撤退を表明、西日本JRバスも縮小を実施した。この影響で直営台数が増加したことで、市交通局では運転手と整備士の大量採用を実施。2019年、2020年度で230人を採用している。
これに加えて、委託料の大幅な値上がりも起こった。委託のメリットは市職員の運転手よりも、民間のほうが給与が安いため、委託したほうが経費が安くすむことにあったのだが、民間も運転手を確保するため給与の値上げを行っており、価格差がほとんどなくなってしまったのである(2018年度の場合、平均月給は市職員の運転手が約47万円に対して、民間は約45万円)。