富裕層の誘致に狂乱する「観光庁」 旅の本質を忘れたなら、もはや「インバウンド産業庁」に改称すべきだ

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観光庁が富裕層旅行者の誘致に力を入れようとしている。その大きな問題点を2つ述べたい。

コロナ禍で消えた中国人富裕層

「爆買い」客は戻るのか?(画像:写真AC)
「爆買い」客は戻るのか?(画像:写真AC)

 2番目の問題点は、政府がこのように旗を振ってラグジュラリーホテルをはじめとした富裕層向け観光地をつくっても、その経営リスクが大きいことへの懸念である。これは1番目の問題のように観念的な青くささもなく、合理的に考えられる問題である。

 中国からの旅行者問題だけをとっても、リスクがあるのは明らかだ。2019年、中国からの訪日旅行者の日本での消費額は、1兆7704億円に上っていた。それに対し、米国からの訪日旅行者のそれは、3228億円である。イギリス、フランス、ドイツ、カナダ、オーストラリアを加えても合計約7680億円で、中国からの半分にも満たない。そして中国には潜在的に訪日旅行を希望する富裕層が多数存在する。その中国人旅行者が、今回のコロナ禍のように突然マーケットから消滅することもあれば、今後突然すごい勢いで増える可能性もある。あまりにも不安定で、不確定な要素が大きいのである。

 これら2つの大問題があり、富裕層をターゲットとして強化するのは愚策といえる。

 重要なのは、観光産業にはリスクが伴うことを強く認識し、前回の記事(2022年11月15日配信「コロナ入国緩和が再び「観光公害」を生む? 変わらぬリスク認識の甘さ、政府は同じ失敗を繰り返すのか」)で述べたように、その対応策も含めて戦略を練ること、また目先の収入予測にとらわれることなく、「観光とは何か」という本質を真摯(しんし)に考えながら進めることである。

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