仏アルストムの高速列車「AGV」 世界最速技術投入も、フランスで採用されなかったワケ

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フランス・アルストム社製の高速列車「AGV」は、大きな期待を担った車両だったが、本国フランスでは採用されなかった。その理由を解説する。

「575」型に込めた最速の誇り

AGVは世界最高水準の走行性能を備える高速列車だ(画像:橋爪智之)
AGVは世界最高水準の走行性能を備える高速列車だ(画像:橋爪智之)

 旧国鉄系イタリア鉄道のライバルとして、2012年に同国の高速列車市場に参入を果たしたのが、イタリアntv社の高速列車「イタロ(italo)」だ。オープンアクセス(列車の運行とインフラを分け、インフラ部分を別会社が持つことで、誰でも自由に鉄道市場へ参入できる制度)による参入自由化後、高速列車市場へ他社が参入したことはもちろん、民間資本の会社が高速列車を運行するということも前例がなく、全てが初物尽くしで大きな話題を呼んだ。

 そのイタロに採用されたのが、フランスの重電および鉄道総合メーカーであるアルストム社が設計・製造した高速列車「AGV」だ。ヨーロッパ初の高速列車として有名なTGVの後継車と目されていた車両で、最大の特徴はそれまで動力集中方式を採用していたTGVから一転、各車輪に動力を配置する動力分散方式へ変更された点だ。他国の高速列車が次々と動力分散方式へ切り替えていく中、かたくなに動力集中方式のTGVにこだわり製造が続けられてきたが、AGVでついに動力分散方式を採用するに至ったのだ。

 動力分散方式にはいくつかのメリットがあったが、まず編成両端に機関車を連結しなければならない動力集中方式と異なり、編成全体に客室を設けることができるため、その分、1フロアで考えた場合、効率よく座席数を増やせる点が大きい。また編成中の複数の台車に駆動軸を置くことで粘着性能を高め、高加減速を実現できる点も、効率的な運用をする上では見逃せないポイントだ。さらに軽量コンパクトな水冷式IGBTインバーター制御装置と永久磁石同期電動機を採用したことで、同程度の編成のTGVと比較して出力荷重比、いわゆるパワーウエートレシオが低くなり、エネルギー消費量は約15%軽減された。

 AGVには、2007年4月3日に鉄の車輪を使用した車両の世界最高速度としていまだに破られていない、574.8Km/hを記録したフランスの試験車両、V150型から得られた技術がいくつも採用されており、前述の制御装置や永久磁石同期電動機も、その試験からのフィードバックを基に開発されたものだ。世界記録は、記録達成という目標そのものも大切だが、そこから得られるさまざまな知見や経験こそが重要で、それらを惜しみなく投入したAGVは、まさにアルストムが社運を懸けて開発した、同社の次世代型高速列車にふさわしい性能を備えた車両だった。

 そのような車両が、新たに発足した民間企業運営の高速列車で採用されるというのだから、これまた大きな話題となった。ntvには、イタロ用として11両編成25本も製造されることになり、滑り出しは順調そのものだった。イタロ用の車両は、ETR575型という形式が与えられたが、これはV150型が打ち立てた世界記録、574.8km/hを端数切り上げしたところから採られており、期待の高さが感じられた。

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