新幹線&リニアの登場で、私たちは幸せになったのか? 高速移動が奪う「情緒的体験」、いま一度再考を

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移動時間の短縮によって私たちはより広い世界を体験できるようになった。しかし、より豊かな経験ができているかというと、そうでもないかもしれない。

所要時間300分の1以下に

新幹線(画像:写真AC)
新幹線(画像:写真AC)

 産業革命以降、人類の移動速度は飛躍的に速くなり、高速化は今も続いている。高速化が進めば目的地までの所要時間は短くなるので、利便性は向上する。しかし、この利便性の向上は果たして、私たちを幸せにしているのだろうか。使える時間が同じなら、所要時間の短縮は、目的地の選択肢を増やしてくれるので、私たちはより広い世界を体験できるようになったと言える。しかし、より豊かな経験ができているかというと、必ずしもそうでもないのかもしれない。

 江戸時代、江戸から大阪までの道のりは、大人の脚で2週間程度だったようだ。しかし、江戸と京都の間には53の宿場町があり、お伊勢参りは片道2~3カ月かけて旅したようなので、2週間というのは今で言うビジネス利用者の所要時間だろう。いずれにしても、途中でその土地の食や文化や人に触れる機会はたくさんあり、一生の思い出に残るような豊かな経験をしていたに違いない。

 江戸時代が終わり、日本で最初の鉄道は新橋~横浜29kmを53分で結ぶようになる。途中駅での停車時間なども含めた「表定速度」は現在の地下鉄とほぼ同じ、飛脚や馬では到底実現できない移動速度であり、当時としては画期的だったろう。1889(明治22)年には東海道線が全線開通し、新橋~神戸が20時間余りで結ばれるようになる。

 昭和に入ると、C62がけん引する超特急「燕(つばめ)」によって、東京~大阪の所要時間は8時間20分まで短縮される。1950年代の終わりには、東京~大阪が全て電化され、当時在来線特急だった「こだま」は、東京~大阪を6時間50分まで短縮する。

 さらに1964(昭和39)年には東海道新幹線が開通し、東京~新大阪を4時間弱で結んだ。1969年にはモータリゼーションに合わせて東名高速道路も開通する。同じ年に初飛行したジャンボジェット機によって1席あたりの輸送コストは激減し、時速約1000kmで移動する空の旅も一般的になっていった。

 そして現在、新幹線は東京~新大阪を2時間半で結んでいる。建設中のリニア新幹線は品川~名古屋を40分で結ぶというから驚異的だ。大阪まで開通すれば、所要時間は江戸時代のなんと300分の1以下になる。

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