鉄道会社は現代人の「豊かさ」「幸せ」に根深く関与している 我々はなぜそれに気付かないのか
父は勤めに、母は家に 「近代家族」の登場
そもそも新中間層が形成した家族とは、父親が外の会社や役所や学校などへ働きに出、母親が主婦として家を守り、子どもを慈しんで育てるというモデルである。
何を当たり前のことを、家族とは元来そういうものではないか、と思う人は、近代特有の価値観を普遍的なものと取り違えておられるのである。
伝統的な家族、日本史や民俗学で「イエ」と呼ばれるものは、家業と家産をもった経営体であり、最重要視されるのは家業の継承であった。
家長の妻は家業経営のパートナーであって家業に忙しく、家事は主に祖母や使用人などが担うのである。家族とはいわば小さな会社であり、その存続が優先されて子どもは口減らしや副収入のための里子や奉公、のちには工場労働などに出されることも珍しくなかった。
それが近代になり、職住が分離されることで家族の在り方は大きく変わる。
公的な仕事は男が独占して外で働き、家に取り残された女性は「主婦」となって子育てに生きがいを見出す。生産活動を共にしないから、一家の紐帯はもっぱら情緒的なものになる。こうした家族を「近代家族」と呼ぶ。
いま私たちが普通の「家族」と思っているものはこの近代に成立したモデルであって、それは欧米で19世紀に、日本では100年ばかり前に成立したものに過ぎないのである。
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続く後編では、現代日本へとつながる「幸せのカタチ」の形成を、鉄道会社がいかにリードしてきたかを詳述する。
主要参考文献(文中に挙げたものを除く):
井田泰人編著『鉄道と商業』晃洋書房、2019年
老川慶喜『小林一三 都市型第三次産業の先駆的創業者』PHP研究所、2017年
落合恵美子『21世紀家族へ 戦後の家族体制の見かた・超えかた』(第4版)有斐閣、2015年
角野幸博ほか『鉄道と郊外 駅と沿線からの郊外再生』鹿島出版会、2021年
George W. Hilton & John F. Due “THE ELECTRIC INTERURBAN RAILWAYS IN AMERICA” Stanford University Press, 2000(初版は1960)