「鉄道貨物輸送」脱炭素で大注目も 結局、本丸ヨーロッパでも全然拡大していないワケ
課題が多いヨーロッパの鉄道貨物拡大

カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量を実質ゼロに抑える概念)に向けて鉄道貨物輸送の拡大が叫ばれているものの、実は、ヨーロッパにおいても思うように進んでいない。
ドイツ連邦統計局のデータによると、EU加盟国における鉄道貨物輸送のシェアは年々減少しており、2020年は
「16.8%」
にとどまっている。一方でトラックによる貨物輸送は、2010年の74.6%に対し2020年は
「77.4%」
と、わずかではあるが増加を続けている。気候変動対策の本場のヨーロッパですら、物流部門における鉄道貨物へのシフトは前進するどころか後退している。
もちろん、鉄道貨物輸送の割合は国によって異なっている。2020年におけるEU加盟国の鉄道貨物輸送のシェアは次のとおりだ。なお、小数点以下の端数は四捨五入している。
・リトアニア:65%
・ラトビア:57%
・エストニア:39%
・オーストリア:30%
・ドイツ:18%
・フランス:10%
・スペイン:4%
リトアニアが最も鉄道貨物輸送の割合が多く、上位3位をバルト3国が独占している。内陸部にあるオーストリアでも30%程度であり、スペインにいたってはわずか4%である。視点を変えれば、先のマースクの取り組みのように将来の伸び代があるともとれるが、専門家によると、鉄道貨物輸送の拡大には課題が多いという。
主な課題としては、まず、国境を越える度に
・機関車の付け替え
・運転士の交代
など、鉄道インフラが旧態依然としている点が挙げられている。さらに同じ国内においても、電化・非電化区間の境界駅で機関車交換が発生する路線もあるという。
次に、
・事故や障害発生時におけるタイムラグ
が挙げられている。鉄道はトラックのように容易に迂回できないことから、線路が開通するまでに荷物が滞留することになる。
三つ目は、
・鉄道旅客輸送の増加による障害化
と指摘されている。地球環境対策として鉄道利用を促進すると、鉄道旅客輸送も増加し、線路容量の関係で鉄道貨物を抑制しなければならないジレンマに陥るのだ。線路を増やす方法もあるが、鉄道運賃の増加を招くおそれもあるという。
一方、物流事業者の視点では、コストに加えて鉄道の弱点ともいえる時間(リードタイム〈商品・サービスを発注してから納品されるまでの時間や日数〉、正確性)も、輸送モードの選択の重要な要素となる。トラック輸送よりリードタイムが長く、かつ事故や障害などによる遅れが生じやすい鉄道貨物輸送は、残念ながら商品として選ばれにくいのだ。