中国に負けた日本の鉄道 同国受注「インドネシア高速鉄道」試運転成功に見る、痛々しいまでの昭和的反応
平穏無事に終了したイベント
ともあれ、公開試運転はオンラインでの実施になった。もちろん、オンラインとは言え、実際に試運転列車は走った。沿線各所、高速鉄道が見渡せるポイントは、黒山の人だかりである。習近平の乗車が無くなったことで、当日、沿線の警備はゼロとなり、撮影し放題になった。
関係者からもらった式次第には、試運転列車は16時50分発車とあった。17時を過ぎれば、山がちの地形と言うこともあり、雲も湧いてだいぶ暗くなる。なんとか撮影に支障がないギリギリの時間設定である。ジョコウィ大統領と習近平国家主席らのオンライン参加は16時40分からで、それよりも先にテガルアール駅側では、リドワン・カミル西ジャワ州知事や、ディディック・ハルタンヨトKAI(インドネシア鉄道)社長ほか、関係者臨席のもと式典が執り行われ、彼らは事前に乗車して16時50分の発車を待っていた。
16時40分過ぎ、バリの会場とテガルアール駅をつないだ中継は、YouTubeでもライブ配信が始まった。中国側からは国家開発委員会、ホー・リーフォン主任、インドネシア側からはルフット・パンジャイタン海事投資調整相がバリの会場から訓示を与え、それを受けて運転士ふたり(中国人とインドネシア人)が車内に乗り込み、16時50分過ぎ、試運転列車は滑るようにホームを出発した。
ただし、出発後の映像は、事前に録画したものを編集して流しており、生中継ではなかった。時間帯も時間帯で、明るい映像にするには日中撮っておくしかなく、さまざまな角度から映し出したものを組み合わせるためにも、こればかりは仕方のないことだろう。それによりも、実際に走らせる必要のないものを、しっかりと走らせたことを評価すべきであろう。
沿線のギャラリーたちは、本当に列車が走ったことを示す証人である。試運転列車は、テガルアール駅から約10km地点まで走って、すぐに折り返して戻って来た。1本目の試運転に乗りきらなかった関係者は、2往復目に乗車し、オンラインで習近平国家主席を招待し、試運転を走らせるという中国、インドネシア両国の威信をかけたイベントは平穏無事のうちに終了した。
このライブ配信は11月下旬現在で再生数は30万回ほど。「バズり動画」とは言えないのかもしれないが、さらに、沿線住民が撮影した個人の動画もYouTubeやInstagramで大きく拡散されている。主要メディアが今回、バリ側、バンドン側ともに、式典会場に入っていないという点も留意しておきたい。
また、ライブ配信動画は加工、編集されて中国メディアの報道でも大きく使われている。こうしてみると、「危ないから乗らない」どころの話ではない。習近平がわざわざ乗るまでもなく、オンラインで実施した方がよほどうまみがあったと言わざるを得ないのではないか。