中国に負けた日本の鉄道 同国受注「インドネシア高速鉄道」試運転成功に見る、痛々しいまでの昭和的反応

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インドネシアが11月16日、中国とともに建設中のジャカルタ~バンドン高速鉄道の試運転を公開した。同鉄道は日本国内から多くのバッシングを受けているが、本当に正しいのか。

試運転はなぜオンラインになったのか

バンドン側の始発駅であるテガルアール駅。周囲は田んぼだが、すでに民間デベロッパーに売却されている。さすがに当日の駅の周囲は警備が厳しく、カメラは出さない方が良いと案内してくれた住民に言われた(画像:高木聡)
バンドン側の始発駅であるテガルアール駅。周囲は田んぼだが、すでに民間デベロッパーに売却されている。さすがに当日の駅の周囲は警備が厳しく、カメラは出さない方が良いと案内してくれた住民に言われた(画像:高木聡)

 では、どうして試運転はオンライン方式になってしまったのか。それは、まず物理的に習近平がバンドン入りするのが難しかったからだ。今回、中国は政府専用機(B747)でバリ入りしており、滑走路距離約2200mのバンドン、フセイン・サストラネガラ空港で着陸はできても離陸が厳しかった。

 ちなみに、この空港は高速鉄道開業後、民間空港としての供用をやめ、同じく西ジャワ州にあるクルタジャティ国際空港に統合するという計画もあるくらい手狭な空港である。翌17日には、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に先行して、習近平はタイ、バンコク入りし、岸田首相と会談していることからも、いったんジャカルタを経由してから、陸路でバンドン入りというのも現実的ではない。

 試運転を11月16日の16時半頃から開始するのは、実地か、オンライン方式かが決定するだいぶ前に政府筋から漏れ聞こえてきていた。対して、G20の閉幕時間は15時30分。1時間でバリからバンドンに移動するには、そもそも無理がある。最悪、別の小型機材を用意し、試運転時間をやや繰り下げて対応という選択肢もないわけでもないが、日のある時間帯に走らせなければ意味がない。高速鉄道の成功は、国内向けにも格好のアピール材料である。日没後の試運転では、政府関係者の自己満足に終わってしまう。16時台での設定は、どうしても譲れなかったのではないか。

 次に、警備上の問題である。実は本番のおよそ1か月前の10月13日、ジョコウィ大統領は、試運転出発式典会場となるテガルアール駅を視察しており、試運転の模擬列車を走行させた。沿線住民を中心に多くのギャラリーが集まったが、その際、異様な光景が広がっていたという。庶民派として知られるジョコウィ大統領は、「会いに行ける大統領」の如く、遊説やイベントの際、人々の手が届くほどに接近することができるし、記念撮影にも応じてくれる。筆者(高木聡、アジアン鉄道ライター)も以前、ジャカルタでMRT(都市高速鉄道)開業式典に向かうジョコウィ大統領を真正面から堂々と撮影できたのには驚いた。

 ただ、今回はどうやら様子が違った。駅周辺はもちろん、沿線、跨線橋の上に至るまで、狙撃銃を構えた陸軍兵士、国家警察の治安部隊が張り付いたのだ。もはや、カメラを取り出せる状況ではなかったと住民は言う。

 実際、ネットやSNS上にも、政府の公式広報の写真以外、このときの試運転の様子は全くと言っていいほど見当たらない。これは明らかに習近平国家主席警備のための訓練である。しかし、沿線全域を完全に警備するのは無理がある上、予想外のギャラリーの多さに、警備には限界があると判断された可能性が高い。あるいは試運転列車をギャラリーに撮影させ、拡散させた方が良いと考えたか、である。

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