守るべきは社員の「雇用か賃金か」 コロナ禍の航空業界から見えた日米「雇用制度」の差、正しいのはどちらなのか

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コロナ禍で明らかになった日米欧の企業文化・雇用制度の差。航空業界を通して考える。

アメリカでの一時解雇の仕組み

アメリカの空港(画像:写真AC)
アメリカの空港(画像:写真AC)

 2020年の7月になると、アメリカン航空やユナイテッド航空は、一時解雇通知を従業員に送付しはじめた。ユナイテッド航空は全従業員の約4割にあたる約3万6000人、アメリカン航空は全従業員の約2割にあたる約2万5000人と、かなりの規模であった。

 アメリカでは一時解雇は60日前までに予告する必要があり、給与支援プログラムの切れる9月末に解雇するには、この時期に解雇の予告をしなければならなかったのだ。

 ただし、この一時解雇とは復職権付きの解雇を指し、会社との関係が完全に切れるわけではない。会社との雇用関係は解消され、給与も支払われなくなるが、復職者の待機リストに名前が掲載され、需要が戻れば順次呼び戻され再雇用される。

 一時解雇は一般的に勤続年数が短い人から解雇され、復職するときは勤続年数の長い人から呼び戻されるしくみになっている(この部分に関してはアメリカも年功的だと言える)。

 2020年9月末日、航空会社向けの支援プログラムが失効し、10月1日にはアメリカン航空とユナイテッド航空で一時解雇が行われた。サウスウエスト航空では、それまでに人員削減が進んでいたことから賃金のカットを目指して組合と交渉を行うが、これは激しい抵抗にあった。12月になると、会社側は一時解雇か賃金カットかという選択を組合に迫ることになる。

 12月14日、大統領選挙においてバイデン氏が勝利宣言を行い、12月23日には航空会社に対する支援プログラムが復活する。サウスウエスト航空は一時解雇を撤回し、アメリカン航空やユナイテッド航空は従業員を職場に復帰させることを発表した。2021年になるとワクチン接種も進み、アメリカの航空需要は国内線を中心に急速に復活することになる。

 一方、一時休業中や一時解雇中に転職してしまった者も多く、従業員の職場への復帰は順調には進まなかった。人手不足に陥る部署も現れ、会社は新規採用に踏み切ることになる。また、組合からは賃上げの交渉も求められることになった。

 本書では、この他にもイギリスのブリティッシュ・エアウェイズやドイツのルフトハンザ航空の事例も取り上げられており、両社とも旅客需要が激減するなかで人員削減に踏み切っている。