タクシー運転手のさまざまな「前職」 彼らの奥深き半生に耳を傾ける

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タクシー業界の内情を知る現役ドライバーが、業界の課題や展望を赤裸々に語る。今回は、運転手の「前職と転職」について。

深海200mを知る名潜水士の死線

知床の海(画像:写真AC)
知床の海(画像:写真AC)

 北海道根室出身のKさんは、この業界に来る前、横須賀の海で深さ200mまで潜っている。タクシーの仕事は全く畑違いだ。

 深海免許取得のとき、左右の腕に6kg、体に6kgを持ち、立ち泳ぎ30分をはじめ、午前と午後に8000mの遠泳、さらに素潜り25mまで潜り、そこに設置されている温度計を見てくる訓練もやった。どれも若いからできた。今ではとてもできないという。

 海には暗黒層(30~40m)があって、そこでは自分の手も見えなくなる。

「俺たちの主な仕事は、港でスクリューの掃除。それと冷却水を吸う口のゴミとか、海藻の掃除。古いロープが巻き上がるのをナイフで掃除するとか、いろいろあった」

「定置網のたて網一式に午前と午後2回潜り、26万円が相場(昭和の末頃)だ。30mくらいの網の作業が一番良い。これを3人のグループでやった。網は規模で違うが、1億円もする商売道具で、最盛期には1か月15回もやっているんだ」

 この話は、じょう舌に聞かせてくれた。

 彼は、何度も危険な事故に遭っている。最大は知床。漁網のセットの作業中、ロープが速い海流によって体に巻き付き、動けなくなったのだ。どうやって脱出したのか記憶がない。必死でもがくうちに、何とか海面に出ることができた。

 死線をくぐった体験談は、タクシー業界と似ても似つかぬ別世界だ。

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