タクシー運転手のさまざまな「前職」 彼らの奥深き半生に耳を傾ける
タクシー業界の内情を知る現役ドライバーが、業界の課題や展望を赤裸々に語る。今回は、運転手の「前職と転職」について。
さまざまな職歴、複数回の転職は普通?
実際、筆者が職場などで出会う同僚・同業者も、かつては別の仕事に就いていたという人がほとんどだ。新卒で初めての職業がタクシーという人もいないではないが、ほとんどは2回、3回、多ければそれ以上の転職経験を持っている。
その職歴はさまざまで、同僚たちの話を聞くのは実に興味深い。
休憩室や、年に一度の旅行会などでよもやま話を聞いていると、びっくりするような前職の人も多い。ひざ詰めで、とっておきの話をしてくれる人もいる。
今後、タクシー運転手への転職を考える人に参考になるかもしれない。これまで聴いた話のいくつかを紹介する。
若手運転手が有名作家に好かれた理由
同僚だったSさんは、10年ほど前に定年退職したが、タクシーの前は昭和の時代に剣客ブームを起こした有名小説家のお抱えドライバーをしていた。
車はメルセデス・ベンツ。いい車で、運転していて乗りやすく気持ちよかったという。ゴルフ好きな作家だったらしく、あっちこっちのゴルフ場へ走らされたという。刀剣も趣味で、有名な刀を持っていた。
60歳代で亡くなったとき、本当に残念でならなかったという。
「俺みたいな若造をすごくかわいがってくれたんだ。えらい先生だったけど、普段は難しい話は一切しないし、俺とは心が通じていたと思ったなあ」と、懐かしそうに目を細めて話していた。
Sさんは、売り上げこそ社内で下の方だったが、人当たりが良く、旅行好きで後輩の面倒見がよかった。そういう性格が、乗客にも好かれたのではないだろうか。
気位が高くないというのは、タクシー運転手に向く素質なのかもしれない。