ブリヂストンの「月面専用タイヤ」がいかつ過ぎる! 気温差300度もへっちゃら、ゴムも空気も使わない驚きの仕組みとは
タイヤの常識が通用しない月面環境
月の温度は最低マイナス170度から最高120度までと、極めて不安定だ。さらに、強い宇宙放射線が降り注いでおり、ゴムや樹脂のような高分子材料は短時間で劣化するため、使用できない。また、そもそも月面は真空状態であり空気も使えない。つまり、地球向けタイヤの常識が通用しない極めて不利な環境がそろっているのだ。
加えて、ルナ・クルーザーは前述のとおり居住空間を備えており、相対的にタイヤが支える車体が大きくなる。月面は「レゴリス」と呼ばれる非常に細かい砂地に覆われているため、接地面圧が高いと砂に埋まって動けなくなる。
過去の惑星探査車と比較しても、より高性能なタイヤが必要で、ブリヂストンのプロジェクトチームはゼロからの設計を余儀なくされた。そこで、素材メーカーや町工場など、社外にも知見を求め、たどり着いたのが、ゴムの千倍以上の硬度を有した金属製タイヤだったというわけだ。
月面向けオール金属製タイヤとは
ブリヂストンが開発した月面用タイヤは、ネットフェンスのようなスプリング状の骨格が採用されており、金属でありながら柔軟性が高く、しなやかにたわむ構造となっている。
また、ひとつのホイールには大型トラックのようなダブルタイヤ構造を採用。接地面積を大きく稼ぎつつ、一般乗用車の約6倍もの接地面積で圧力を分散させている。
さらに、より圧力を分散できるよう、スチールウールのようなふわふわした金属素材をタイヤ全面に配置している。これは、月面と同じ砂地に暮らす
「ラクダの足裏」
からヒントを得て採用された。
現在、このタイヤはテスト車両に装着され、砂地や斜面での走行テストが行われている。当然ながら、月面での実験走行はできないため、2029年の打ち上げまでに周到な試験が必要だ。月面でのミッションを足元から支えるプロジェクトチームの挑戦は続く。