「桃鉄」のルーツは明治時代だった? 近代化が生み出した鉄道と美術の融合、鉄道開業150年で振り返る

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鉄道開業150周年を記念して、鉄道と美術に関連性に迫る。

鉄道需要を掘り起こした鳥瞰図

吉田初三郎が描いた鳥瞰図(画像:国土地理院)
吉田初三郎が描いた鳥瞰図(画像:国土地理院)

 鉄道と美術の融合史を語る上で、はずせないのが鳥瞰(ちょうかん)図の存在だ。鳥瞰図そのものは奈良時代から描かれてきた歴史を有するが、鉄道各社は明治期から鉄道需要を掘り起こす目的で盛んに制作・発行している。

 鳥瞰図とは一般的になじみの薄い地図だが、これは鳥の視点で描いた地形図を指す。鳥瞰図の特徴は、単に見えるものを上空から描いているのでなく鳥瞰図師が見ている人を楽しませるために描画や彩色で工夫を凝らしている点にある。

 大正期に爆発的な人気を博した鳥瞰図師・吉田初三郎は、絵の描写力もさることながら観光地をデフォルメする表現力に優れていた。例えば、1927(昭和2)年に吉田が制作した日本鳥瞰近畿東海大図では中央に富士山が描かれているが、後方には太平洋が広がり、その向こうにはハワイやサンフランシスコまで見える。

 通常、このような景色は存在しない。デフォルメした鳥瞰図だからこそ成り立つ描き方といえるが、この吉田のデフォルメ技術は他者の追随を許さず、吉田の制作した鳥瞰図はほかの鳥瞰図師が制作したそれと区別する意味合いから初三郎式鳥瞰図とも呼ばれるようになった。

 また、吉田の鳥瞰図はグラフィック面のほかにも優れていた点があった。持ち運びのしやすさと大きな絵で見たいという、相反するユーザーの欲求を両立させるべく吉田は折本式を考案。折本式とは横に長くつなぎ合わせた紙を一定間隔で折り畳んだ蛇腹状のものを指す。

 近年は折本式といってもなじみが薄く、名称だけではピンとこない人も多いだろう。ちなみに、最近では、2021年に菅義偉首相(当時)が広島県広島市で開かれた平和式典でスピーチを読み飛ばしたことが話題になったが、そのときに手にしていた原稿が折本式だった。

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