ディスカウントありきのハリボテ旅行需要 “安いニッポン”を加速させかねない「全国旅行支援」の本質とは
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旅行需要はディスカウントによるもの

国際観光局の新設により、旅行は観光と言い換えられていくようになる。
国際観光局が発足する以前の明治期から大正期にかけて、鉄道の開通によって神社参拝が身近になっていた。鉄道により、遠くの名刹(めいさつ)にも足を運べるようになり、すでに神社参拝は庶民のレジャーとなっていた。そうした下地があるなかで、観光という言葉の登場。鉄道を使った旅行は、さらに身近なものになっていく。
戦後、復興が一段落した頃から鉄道を旅程に組み込んだ社員旅行や新婚旅行などの需要も増えていった。1970(昭和45)年の大阪万博では、全国各地から会場を目指す人たちが鉄道を利用した。大阪万博は鉄道需要を生み出したが、他方で国鉄は閉幕後に反動で利用者が落ち込むことを不安視していた。
そこで、国鉄は電通とタッグを組んで需要促進プロモーションを発案。それが“ディスカバー・ジャパン”につながっていく。“ディスカバー・ジャパン”は時代を捉えたキャッチーなプロモーションとなり、これは現在も伝説的に語られる。
鉄道需要を掘り起こすためのプロモーションを振り返ってみると、旅行や鉄道の魅力を高めようとしたり、観光地の潜在的な魅力を広く伝えようとしたりした姿勢がうかがえる。それは国鉄からJRに鉄道の事業体が変わっても不変だった。1993(平成5)年にはJR東海が“そうだ 京都、行こう。”キャンペーンを開始。同プロモーションで使われたキャッチコピー“そうだ 京都、行こう。”は、現在にまで続く名キャッチコピーとなった。
一方、コロナ禍で推進されたGoToキャンペーンや全国旅行支援は、
「ディスカウントによって旅行需要を創出している」
にすぎない。
旅行代金が安くなれば、これまで足を運んだことがない観光地に行く機会を生む可能性はある。そうした新しい需要創出を期待できるが、明確なビジョンがないままにディスカウントを続ければ、結局のところ安売り競争を招くだけだろう。
それは、バブル崩壊以降に日本が続けてきたデフレ政策とダブる。近年になって、“安いニッポン”は多くの国民から認識されるようになっているが、全国旅行支援はそれと同じ轍(てつ)を踏んでいる。
全国旅行支援はスタートしたばかりで、今のところ話題性も十分で客足も順調だ。しかし、観光地の正念場はディスカウント期間を過ぎてからといえる。一時的な需要創出では、安倍・菅・岸田政権が目指してきた観光立国にはつながらないだろう。
まだ全国旅行支援は始まったばかりだから、その判断を下すのは早計ではあるが、今の時点から長期的な視点に立った次の手を考えていかなければならないだろう。