ディスカウントありきのハリボテ旅行需要 “安いニッポン”を加速させかねない「全国旅行支援」の本質とは

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国鉄はかつて、電通とタッグを組んで需要促進プロモーション「ディスカバー・ジャパン」を行った。しかし需要促進でも、「GoToキャンペーン」は色合いがまったく異なる。

政府が観光産業に向けたテコ入れしたワケ

羽田空港(画像:写真AC)
羽田空港(画像:写真AC)

 2020年初頭に新型コロナウイルスの感染が拡大し、世間では移動の自粛を求めるムードが高まった。これらにより大打撃を受けたのが、鉄道業界や観光業界だ。特に、観光産業は飲食業・宿泊業をはじめとして関連する事業者が多い。ゆえにコロナ禍による経済的なダメージは計り知れない。

 そうした観光産業のテコ入れを図るべく、安倍晋三首相(当時)は約1兆6000億円もの予算を組んで「GoToキャンペーン」を開始。GoToキャンペーンは

・国内旅行を奨励する「GoToトラベル」
・飲食需要を復活させる「Go To Eat」
・音楽や演劇などの公演やイベントの振興を図る「GoToイベント」
・疲弊した商店街の活性化へとつなげる「GoTo商店街」

の四つの柱で構成されていた。

 これら4項目のうち、特にGoToトラベルは大規模な移動を伴う。これがコロナ感染を拡大する要因とされたためにGoToキャンペーンは中止に追い込まれた。

 2022年10月11日、岸田文雄首相はGoToキャンペーンに代わる新たな観光需要喚起策として「全国旅行支援」を開始した(東京都は10月20日から開始)。同政策により、各地の宿泊施設は早くも予約が殺到している。なかには、宿泊代などが高騰し、便乗値上げをしたのではないかと思われるような現象も起きている。

 全国旅行支援はひとり1泊の旅行代金を最大で8000円を補助するもので、その割引率は最大で40%にも達する。政府が個人の旅行代金をディスカウントするように主導するような政策を打ち出すのは、ひとえにコロナ禍が観光産業を疲弊させたことを物語っている。

 コロナ禍によって疲弊したのは観光業界だけではないが、前述したように観光業界の裾野は広い。さらに、2012年に第2次安倍政権が発足して以降、歴代政権は観光立国を掲げ、円安誘導を続けてきた。そうした政策の積み重ねがあるだけに、コロナ禍で観光産業が疲弊したことは想定外のことでもあった。政府がGoToキャンペーンや全国旅行支援といった観光産業に向けたテコ入れ政策に取り組まざるを得なかったのは、そうした背景による。

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