開発難航の「三菱スペースジェット」 カリスマなき体制で、日の丸の翼は消えゆくのか
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うまくいかないワケ
航空機開発は非常に時間を要するため、けん引役の存在が重要だ。しかし、開発主体である三菱航空機(愛知県豊山町)は社長が6代目、チーフエンジニアが5代目と、頻繁に交代している。これは異例といっていいだろう。
国産旅客機として代表的なホンダジェット、YS-11の開発にはカリスマ技術者と呼ばれるリーダーが存在した。ホンダジェットの場合、それは藤野道格(みちまさ)氏で、日本で技術経営を実践した代表的な人物だ。藤野氏はホンダエアクラフトカンパニーの社長として、また技術者として同機を開発し、大成功を収めた。そして、開発開始からローンチまでの30年間、ホンダジェット開発のリーダーを務めた。
YS-11の場合は「五人のサムライ」と呼ばれる技術者が支えた。そのなかでも特に知られている技術者は堀越二郎氏で、宮崎駿監督の映画「風立ちぬ」の主人公としても知られている。堀越氏は三菱零式艦上戦闘機(ゼロ戦)の主任設計者で、戦前の航空機開発を支えた技術者がYS-11開発を成功へと導いた。
残念ながら、MSJにはこのような強烈なカリスマ性をもった開発人材がいない。開発は多くの人がチームを組んで行われるが、新型航空機の開発という極めて複雑なプロジェクトには、藤野氏や堀越氏のような他者とは一線を画す人物が不可欠だ。前述の三菱航空機の幹部交代を鑑みると、開発が難航していることもうなずける。
三菱重工は製造業のコングロマリット(複合企業)で、モノづくりに関する多くの技術・人材を抱えているが、各地の事業所ごとに独立した企業のようになっている。カリスマの不在を補うためには、事業所の垣根を越えなければならない。また、「自前主義」にこだわらず、量産に成功したホンダとの提携など、大胆な事業の見直しが求められる。
車のEV化や自動運転の台頭で部品点数は減少し、自動車をはじめとする製造業は窮地に立たされている。自動車の部品点数をはるかに上回る航空機の量産が実現できれば、日本の産業界に与えるインパクトは非常に大きい。
そういった意味でMSJは救世主となるだろう。日の丸の翼が1日でも早く日本、そして世界の空に羽ばたくことを期待したい。