名門ブランドの下で行われるダンピング競争 静岡の観光バス横転事故から浮かび上がる、旅行業界の構造的病理

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2022年10月13日、静岡県内で大型バスの横転事故が発生。死傷者を出す惨事となった。こうしたバス事故は8月にも起きたばかり。なぜ重大事故は後を絶たないのか。

「カーブを曲がり切れず」過去にも

 カーブを曲がり切れずに大事故を起こしたという経緯からは、2016年1月に軽井沢で起こったバス事故が連想される。ゆるい坂道のカーブを曲がり切れずに道路脇に転落し、大学生など15人が死亡した。

 この時も、運転手はほとんど大型バスの運転経験がないまま、気が進まないままに会社の強い要請で運転をしていた。

 運転手も死亡したため、完全な原因究明には至っていないが、現在まさにその事故の裁判が行われ、今回の事故が起こった2日前の10月11日(火)に、当時のバス運行会社の社長らに対して求刑がなされたばかりのタイミングである。

 いずれの事故の場合も、未熟練といっていい運転手に大型バスを運転させたことが共通の事故原因だとすると、今後さらに別の事故が発生する恐れも否定できない。

 まず、慢性的にバス運転者が足りない。

 2002(平成14)年に道路運送法が改正され、従来行われてきた需給調整規制が撤廃され、零細企業でも容易に新規参入ができるようになった。

 また、運賃も適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えない範囲で自由に設定できるようになった。その結果、供給過多となって激しい生き残り競争が発生し、ダンピング(不当に安く売ること)が横行するようになった。

 ここで「ダンピング」という場合、安全のためのコストが適正に計上されないことに特に注目したい。

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