「簡単に稼げるかも」 軽乗用車の配達解禁に色めく人たちを待ち構える、全然軽くないヘビーな現実

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2022年10月から、黒ナンバーの対象外だった軽乗用車でも小口配送事業が可能になった。これはチャンスなのか、それとも……

高額な黒ナンバーの任意保険

「軽乗用車を使った配送に関する意識調査」の調査結果(画像:207)
「軽乗用車を使った配送に関する意識調査」の調査結果(画像:207)

 しかし、認知度が向上して新規参入する個人が増えれば、国土交通省の思惑通りなのだがそんなにうまく進むだろうか。黒ナンバーを取得すれば、さまざまな形で小口配送の業者になれる。ただ、取得しただけで始めるのは極めて危険だ。

 とりわけ自動車で配達すれば、事故に遭遇する可能性は極めて高い。そこで保険への加入も必要となる。それも、自賠責保険だけではなく任意保険もだ。自賠責保険では保証範囲が対人事故のみ、かつ補償範囲も限定されているので、万が一のときに十分な補償を受けられないケースが容易に想像できる。

 黒ナンバーの任意保険は高額だ。自家用車では各社が保険料の安さと補償の手厚さを競い合っているが、黒ナンバーを取り扱う会社は少ない。そのため、東京海上日動や損保ジャパン日本興亜などの大手保険会社と契約することになるが、保険料は

「最低でも月1万円」

を超える。これに加えて、ガソリン代なども自腹であるため、営業経費はかなりかかるだろう。こうした手続きや保険の問題を回避するため、黒ナンバー車を月極でレンタルする会社も登場している。

 最大の問題は、黒ナンバーで荷物を運ぶ当人は個人事業主であることだ。ゆえに、荷物の増加による過重労働や事故対応も自分で対応しなくてはならない。実際、黒ナンバー車の事故は多発している。2022年7月に『読売新聞』に掲載された記事では、こんなデータが示されている。

「読売新聞が警察の事故データを独自に分析したところ、黒ナンバー車が「第1当事者」となって死者や重傷者が出た重大事故は、17年から増加に転じ、21年は365件(うち死亡21件)と16年比で83%増えた。軽傷を含む死傷事故全体も21年は16年より26%多い4616件。事故全体の件数は減少しており、主な車種別で、重大事故が増えていたのは黒ナンバー車だけだった」(『読売新聞』2022年7月9日付朝刊)

 黒ナンバーでの開業を勧めるウェブサイトでは、想定される収入例を示しているところもあるが、たいていの場合、身体を酷使しなければ到達できない金額だ。さらに、トラブルの全責任を負う必要があると考えれば、自由で楽な仕事ではない。かつ、ウーバーイーツの配達員などが交通ルールを無視していることを考えると、この仕事に対する世間の目は厳しい。

 軽自動車までの規制緩和はまたとないチャンス到来のように見えるが、その実態は

「国家先導の不安定労働の奨励」

だろう。もちろんデメリットばかりではないし、努力と工夫で稼げることもあるが、その道は実に険しい。規制緩和は「諸刃の剣」であることを忘れてはならない。