「EV = 日本で普及しない」といまだに言い続ける人たちへ あなたたちは基幹産業を弱体化させるつもりなのか? データで徹底証明する

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世界がEVを推し進めるなか、日本国内のメディアなどは「EVは製造で大量の二酸化炭素を排出する」といまだに主張している。これは本当なのだろうか。

「EV = 脱炭素にならない」は本当か

内燃機関車とEVの排出量の比較(画像:画像内の論文を引用し、筆者が再計算して作成)
内燃機関車とEVの排出量の比較(画像:画像内の論文を引用し、筆者が再計算して作成)

 2019年のマツダと工学院大学の発表によると、製造した時点でEVは

「内燃機関車の2倍程度の二酸化炭素を排出する」

とされている。

 その後11万km走行すると逆転してEVのほうが低排出となるが、EVは16万km走行した時点で電池を交換するために再度EVより内燃機関車のほうが低排出となり、車両の寿命となる20万km走行するまで逆転することなく、最終的には内燃機関車のほうが排出が少ないとしている。

 この発表を真に受けるならば「EVよりも内燃機関車のほうが環境に良い」といえそうだが、実はこの発表にはさまざまな問題点が存在する。まず電池の製造過程での排出については、いくつかの実例を平均して1kWhあたり177kg排出するとしているが、これは車載向けの量産が始まる前のデータを基にしている。

 例えば、スウェーデンの研究機関であるスウェーデン環境研究所(IVL)の発表によると、直近では1kWhあたり61~106kgまで減少しており、量産による効率化や再エネの使用により半分から3分の1程度に減少している。

 次に16万kmで電池の交換が必要とされているが、これは10年以上前に生産された一部のEVを除き、非現実的な想定である。例えばテスラ車の電池の劣化状況を調査している「KATU Tesla Battery Survey」によると、20万マイル(約32万km)の走行後でも、平均で新車の90%程度の容量が残っていることを示している。さらにレクサス初のEVとなるUX300eについても、欧州では10年/100万kmの電池保証がついており、16万kmで交換する想定は前時代的であるといえる。

 一方で乗用車の平均使用年数は13.51年(自動車検査登録情報協会、2020年実績より)、年間平均走行距離は6017km(ソニー損保、2020年全国カーライフ実態調査より)とされており、生涯の走行距離は単純計算で8万km程度となる。

 このように、多くの場合で車両よりも電池のほうが長寿命であることから、EVとして寿命を終えた電池はすぐには廃棄されず、定置型蓄電池などの用途で再利用が可能である。例えば電池の寿命の半分をEVとして使った場合、LCAの原理原則にのっとれば、生産時の排出量は残りの寿命に応じて計上することが本来は妥当といえる。

 さらに発電による排出量に2013年の実績を使用しており、車の平均使用年数である13年間、変わらないと想定されている。一方で政府は2050年のカーボン・ニュートラルに向けて、発電における二酸化炭素の排出量を2030年にほぼ半減させることを目指すとしている。

 走行による排出量を計算する上で重要な点は、内燃機関車は購入後に排出量が減ることはないのに対し、EVは発電における排出量が減少すれば走行の排出量も自動的に減少する点である。内燃機関車もクリーンエネルギーで生成した高価なバイオ燃料や合成燃料を使えば削減可能かもしれないが、普及させるにはクリーンエネルギーのコストを大幅に削減する必要がある。一方でEVは直接これらのクリーンエネルギーを電池にためて使うため、クリーンエネルギーのコストが下がればEVのコストはバイオ燃料や合成燃料以上に安価になることを意味する。

 このように、今回の発表ではEVに対して不利な条件を設定した上で、内燃機関車についてはエンジンオイルや特有の消耗部品の交換・廃棄を考慮しないなど、有利な条件を設定している。これらのEVに対して不利な条件を実際に近い数値に差し替えて再計算すると、画像の通り約7万kmの走行で逆転してEVのほうが低排出となり、20万km走行後は2倍以上の差が広がっていることがわかる。このほかの

「内燃機関車のほうが環境にやさしい」
「EVは普及は難しい(電気や充電インフラが足りないなどを含む)」

といった主張も、多くの場合で似たような手法が取られているので、うのみにせずに前提条件を検証する必要がある。

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