ローカル線を再活用? 三重県・四日市で注目の「歩行者優先まちづくり」、地方都市の郊外化を止められるか

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国土交通省が2020年から進めるウォーカブルシティ(歩行者優先のまちづくり)。そこでの活躍が期待されるのがローカル線だ。

2015年運行開始「四日市あすなろう鉄道」とは

近現在、近鉄四日市駅側に街のにぎわいはシフトしている(画像:小川裕夫)
近現在、近鉄四日市駅側に街のにぎわいはシフトしている(画像:小川裕夫)

 その一例が、2015年から運行を開始した四日市あすなろう鉄道だろう。四日市市内には、近鉄が運行する内部線と八王子線がある。両線を合わせた総延長は約7.0kmと短く、利用者も少ない。そのため、近鉄は2012年に内部線と八王子線を廃止することを表明した。

 近鉄の意向に反して、四日市市は両線の存続を希望する。こうした背景から、四日市市と近鉄の協議が続けられた。その結果、存続にあたって近鉄が75%、四日市市が25%を出資して、新たに四日市あすなろう鉄道が設立される。そして、両線の運行を四日市あすなろう鉄道に移管させた。

 出資比率だけを見ると、四日市市が鉄道を残したいという強い意欲は感じにくいかもしれない。しかし、四日市市は線路などの鉄道施設のほか、運行に必要な車両を所有し、それをあすなろう鉄道に貸し出すといった形式を取った。このスキームにより、運行にかかる固定費を大幅に縮減している。

 昨今、地方自治体が線路などの鉄道施設を保有することで鉄道事業者の負担を軽減することは珍しくない。これは上下分離方式と呼ばれるスキームだが、四日市市のように車両までを購入・保有までするケースは多くない。それほど四日市市は鉄道を存続させようとしていたのだ。

 四日市あすなろう鉄道の利用者は決して多くない。また、沿線人口は年を追うごとに減少している。今後は赤字額が拡大していくことは明らかだった

 このまま利用者が減少して赤字額が拡大すれば、市民から税金で路線を維持することに疑義が呈されるだろう。そうした声が大きくなれば、市だって鉄道の存続を諦めてしまいかねない。

ウォーカブルシティで甦る鉄道

近鉄四日市駅は、バスターミナルの整備も計画されている(画像:小川裕夫)
近鉄四日市駅は、バスターミナルの整備も計画されている(画像:小川裕夫)

 過激な表現をすれば、四日市にとって四日市あすなろう鉄道は税金を無駄に費消する不良資産だった。ところがウォーカブルシティという施策によって、あすなろう鉄道が優良資産へと生まれ変わる可能性も見えてきた。

 ウォーカブルシティの取り組みのひとつとして、四日市市は近鉄四日市駅前に円形の歩行者デッキを設置することやバスターミナルの開設などを計画。これらは駅前の回遊性を高める効果が期待されている。

 これらの施策だけでは、従前の駅前再開発事業と変わらない。四日市市は多面的なウォーカブル施策を実施するにあたり、既存の交通インフラである四日市あすなろう鉄道の活用も企画している。

 四日市市は2022年4月に四日市あすなろう鉄道を活用したまちづくり事業の企画を公募。四日市市のウォーカブルシティ政策の一翼を担うことが期待される。

 国土交通省が打ち出したウォーカブルシティへの取り組みは緒に就いたばかりで、決して前途が明るいわけではない。四日市市のウォーカブルシティにいたっても、計画段階だから過大な期待は禁物だろう。

 それでもウォーカブルシティ政策が盛り上がりを見せることで、ローカル線の再活用が模索され、それによって救われる鉄道が出てくる可能性はある。それだけに、四日市市の手腕に注目が集まる。

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