断固ローカル線維持を訴えても 「公的支援の拡大」に及び腰な地方自治体の悲しき現実
欧州各国は上下分離方式を導入

日本の鉄道は、線路などのインフラ維持管理と列車の運行を同じ会社が行う上下一体方式が一般的だが、欧州では上下分離方式が当たり前になっている。スウェーデンが1988年の国鉄民営化で進めた上下分離の成功を見て、欧州連合(EU)が推奨したからだ。
これまでに
・フランス
・ドイツ
・イギリス
・イタリア
・スペイン
・オランダ
・ノルウェー
・チェコ
など、多くの国が上下分離を採用した。
公共交通としての鉄道を
「税金投入しても維持すべきもの」
と考え、環境負荷が小さい鉄道貨物の復権や各国の鉄道網へ相互乗り入れできるシステム作りも視野に入れた対応だ。
日本でも2007(平成19)年、自治体に公共交通維持への主体的役割を課した地域公共交通活性化再生法が施行されて以降、少しずつ導入例が増えている。主な導入例は
・福井鉄道(福井県)
・若桜鉄道(鳥取県)
・養老鉄道(三重県~岐阜県)
・青い森鉄道(青森県。東北新幹線延伸でJR東日本から経営分離)
などだ。
福井鉄道は福井市、鯖江市、越前市、若桜鉄道は若桜町、八頭町、養老鉄道は三重県桑名市、岐阜県大垣市など沿線7市町、青い森鉄道は青森県が設備を維持管理している。その結果、鉄道会社の負担は大幅に軽減された。
上下分離導入に暗い影

ところが、経営状態の悪化が続くJR北海道やJR四国が地元自治体とローカル線のあり方について懇談するなかで、自治体から路線維持を求める声は出ても、上下分離に前向きな意見は上がっていない。なぜだろうか。
日本では鉄道事業について、
「鉄道会社が自己責任で運営する」
という考えが根付いていることもあるが、国と自治体の財政難も足かせになっている。財務省によると、国の借金に当たる普通国債残高は2022年度末で1026兆円に達する見込み。国内総生産(GDP)の2倍を超え、主要先進国で最も高い水準にある。
自治体の財政悪化も深刻だ。標準的な地方税収を行政事務の経費で割った財政力指数を見ると、北海道釧路市は1985(昭和60)年度の0.65が2020年度に0.45まで下がった。昭和の時代は予算の3分の2を税収でまかなえたのに、今は半分以下しかない格好だ。町村部だと和歌山県古座川町の0.14、高知県東洋町の0.13など予算の2割もまかなえない自治体が並ぶ。
地方の自治体は
・人口減少や地方経済の疲弊による税収減
・少子高齢化による社会保障費の増加
・公共施設整備に充ててきた起債返済の長期高止まり
の三重苦にあえいでいる。しかも、高度経済成長期に大量に整備した水道、橋などのインフラがこれから耐用年数を迎え、団塊の世代が後期高齢者になる。
自治体の財政負担がこれまで以上に大きくなるわけで、これでは多額の持ち出しが必要な上下分離の導入を簡単に受け入れることはできない。
この状況を打破するには、国がローカル鉄道のあり方を抜本的に見直す必要があるが、それが実現するまでは住民が自治体を動かすしかない。若桜鉄道の経営が悪化した際、住民が
・募金
・乗車運動
・観光ボランティア
を展開して存続を訴え、上下分離の導入にこぎつけた。
「沿線住民が熱意を示せるのか」
その点が上下分離方式導入の鍵を握りそうだ。