EVアンチの常套句「長距離運転に向かない」は本当? 実際に走ってみたら、給油より充電のが楽だった
充電時間をゼロにするための方法
片道の距離が400~500kmを超えて、やっと急速充電器の出番となる。EVを所有したことがない場合、充電といえば急速充電をイメージされることがあるが、基本は自宅や目的地での普通充電であり、実は急速充電はあくまでも遠出時の補助的な充電方法だ。
急速充電の充電時間をゼロにするには、休憩時間だけで充電を完了する必要がある。もちろん休憩の頻度や長さは人によって異なるが、例えば
「251~300kmを移動する人の86%が30分以下、46%が30~60分の休憩を取る」(ETC2.0プローブデータを活用した都市間高速道路における休憩行動分析(平井氏ほか))
という調査結果がある。言い換えれば、この30分で300kmを走行できる分を充電できれば、多くの場合、充電時間はゼロになる。
問題は30分で300km走行分を充電できるかどうかだが、こればかりはハッキリと答えることは難しい。例えば全国に約50か所(2022年8月現在)の独自の超急速充電網「スーパーチャージャー」を展開するテスラ車であれば、多くの場合はクリアできる。一方で国内の汎用(はんよう)的な急速充電規格である「CHAdeMO」に頼る他のメーカーの場合、車種や行き先によってはクリアできない可能性もある。
というのも、CHAdeMOの急速充電器は大半が出力50kW以下であり、この場合は30分充電しても100~150km走行分しか充電できない。高速道路上のSA/PAにも30分で200km走行分以上を充電可能な、出力90kWに対応した急速充電器はあるものの、全国に7か所(2022年8月現在)とまだ数が少ない。さらに、ほとんどの場所で1か所につき1~2台程度しか設置されていないため、充電待ちが発生する可能性が高い。もちろん将来的には増加すると見られるものの、残念ながら欧米のような350kWに対応した超急速充電器が広く整備されるめどは立っていない。
このように、充電時間をゼロにするためには
「各自の運転スタイルに合った充電性能を持つメーカーや車種を選ぶこと」
が重要だ。
それでも、慎重な考えを持つ人であれば、この状況を見て「インフラが整っていないから、EVはまだ早い」と思うかもしれない。そこで先ほどの「片道400~500kmを超えるような遠出が年に何回あるのか」という質問を思い出してほしい。確かにごく一部の「毎週のように1000km走る」という人には厳しいかもしれないが、遠出が「年に数回」であれば話は変わってくる。
なぜなら、EVなら前述の通り「帰宅時にコンセントに挿す」という自宅充電が可能で、わずか10秒の動作だけで毎朝満タンで出発できるからだ。例えば週1回の給油で1回5分とすると、年間で6時間。一方でEVなら1日20秒、年間でも2時間と給油の1/3で済む計算だ。
さらに内燃機関で必須だったオイルやフィルターの交換、ブレーキパッド交換などは不要となり、メンテナンスの手間を省ける。加えてモーターによる動力性能や静粛性向上、維持費削減、災害に強いなどの副次的なメリットも無視できない。
筆者のように遠出でも充電時間をほぼゼロにできるなら当然のこと、日常的な給油やメンテナンス時間の節約を加味すると、例え年に数回の遠出で300kmごとに20~30分の休憩を取る必要があったとしても、決して悪い選択肢とはいえないだろう。