世界トップレベルの鉄道大国「日本」で貨物輸送が全然伸びない本質的理由
国際輸送網との「分断」
次に大きな問題は、国際輸送網と国内輸送網との分断だ。
鉄道貨物の対象となるのは大ロット貨物だが、メーカーの製品などのうち、大ロットで輸送されるものの相当な割合が、港を通じて海外へ輸出(または輸入)される。
このような傾向は世界共通であるため、各国とも鉄道輸送網と海上輸送網とを効率的に接続することを重視しており、鉄道を港湾のコンテナヤードに引き込んで直接積み込む、といった対策が多くの国で採用されている。
一方の日本では、この接続に大きな課題を抱えており、主要港ではいったんトラックで運び出し、貨物駅で積み替えるといった煩雑なオペレーションが発生している。
ここで重要なポイントは、単に港湾の効率が低下するといったミクロな影響にとどまらず、国際海上輸送と鉄道との分断を通じて、鉄道網全体の経済的価値が大きく損なわれているということだ。
鉄道網の利益を享受しているのは誰か
このような課題は、もちろん行政にも共有されているのだが、対策のための原資がないために、なかなか改善が進まないのが現状だ。JR貨物単体で見ると、その鉄道事業収益は1000億円台半ばにとどまり、なおかつ近年赤字基調である。以上で見てきたのような課題に対し、単独でできる対策は極めて限定的だと考えられる。
ここで改めて確認しておくべきなのは「誰が受益者か」という論点である。
携帯電話におけるネットワーク効果の説明からわかるように、ネットワークのメリットを享受するのは、第一義的には末端のユーザーだ。携帯電話で、いつでも・誰とでも、連絡が取れるようになったことの利便性は、多くの方が実感しているとおりである。
これと同じことが鉄道網についても言える。鉄道網にアクセスできる地域企業等は、ネットワーク効果を通じて低コストで輸送サービスを利用でき、その経済的メリットを享受しているのだ。
地域産業が鉄道網から恩恵を受けている一例が、東北における自動車産業だ。岩手県を中心とした東北地方には自動車関連工場が多数立地しており、地域の基幹産業となっているが、実はその輸送の3割程度を鉄道が担っているのである(全国平均の6倍に相当する割合)。
自動車産業は裾野の広い産業であるため、サプライチェーンは愛知県を中心に全国に広がっている。そのような遠隔地から低コストで輸送することができているのは、鉄道網が利用できるおかげだ。
逆に、鉄道貨物輸送の利便性を享受しにくい地域もある。例えば九州南部や四国が代表的だが、これら地域の主要産業である農産物の輸送は、現在のところトラック頼りだ。昨今の運賃上昇によって、これら遠隔産地は輸送コストの増大に苦しんでいるのだが、もし大都市圏まで鉄道で安価に運べるなら、地域の農業生産にプラスに働くはずである。