赤字垂れ流しの北九州市営「若戸渡船」に廃止議論が一向に起きないワケ

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北九州市が運営する若戸渡船。すぐ近くに若戸大橋があるにもかかわらず、なぜ維持されているのか。

公共交通機関とは何か

2011年1月に後継船「第十八わかと丸」の就航に伴い、現役を退いた「第十七わかと丸」(画像:北九州市)
2011年1月に後継船「第十八わかと丸」の就航に伴い、現役を退いた「第十七わかと丸」(画像:北九州市)

 開通当時、若戸大橋には歩道が存在した(車線変更で現在は消滅)。小倉までのバスが走り、歩いて渡れるので、一見便利に見えるが、必ずしもそうではなかった。

 若松と戸畑間の往来は多く、坂道を登って行き来するのにするのは不便極まりなかった。交通渋滞が発生すれば、バスの時間は読めない。生活道路としての機能は渡船のほうが優位だった。とりわけ、自転車で通学する高校生は、渡船でなくてはならなかった

 結果、存続の声を反映する形で、当時の両市の市議会議長が架橋に尽力した元自民党副総裁・大野伴睦に頭を下げて存続が決まったとされている。

 生活道路である以上、利用者が減少しても、市の予算から補填することは半ば当然のこととして認識されている。100円の運賃も生活道路ゆえだ。ちなみに、1995(平成7)年までは20円で、その後も50円という時期が続いた。

 50円に値上げされた当時、ひとりあたりの運行コストは160円だった。このため、運営検討委員会が費用の6割を運賃収入で賄うことを求めて、値上げが実施された。それでも赤字運行が継続しているが、廃止論が出ることはない。

 これは、公共交通機関とは何か――を改めて考えさせられる例である。