「電力不足なのにEV増やすな」がどう見ても暴論すぎるワケ
大量に捨てられている電力を有効活用

電力の需給がひっ迫する一方で、2020年には九州電力管内だけでも出力制御により約390GWhの再エネが捨てられた。これは全国のEVが消費する電力量である、約480GWhの大部分を賄える量だ。
それでは、いったいなぜ大量の電力が捨てられているのか。電力は需要と供給を一致させる必要があるが、天気の良い日中は太陽光発電の発電量が増える。供給が需要を上回ることを防ぐためには、出力制御により供給量を減らすしかない。
一方でEVには数十kWh以上の巨大な蓄電池が搭載されており、一般家庭数日分の電力をためられる。自動車は平均すると約9割の時間が駐車されており、駐車中に余った電気で充電し、需要がひっ迫する時間に放電することで、これらの捨てられた電力を活用して需給のひっ迫を軽減することも可能になる。
これは
・V2H(Vehicle-to-home:車両から住宅への給電)
・V2G(Vehicle-to-grid:車両から電力網への給電)
と呼ばれる技術で、V2Hは日本を中心に普及し、V2Gも日本を含む世界各地で実証実験が進められている。例えば国内ではニチコン社だけでも約1万台のV2H機器を販売済みであり、これらの出力を合計すると数十MWの規模となり、中規模発電所1基分に相当する。
V2Gについても、小規模ながら2018年に中部電力とトヨタが国内初の実証実験を実施。米国では全14州において、再エネが豊富な昼間に車庫で眠る数百台のEVスクールバスに充電、夕方に使用後、余った電力を夜間に放電する実証実験が進行中。英国でも日産などが2021年に100台規模のEVで実証実験を実施、充電時と放電時の価格差を利用して利益を得る仕組みを実証した。この他にもホンダやVW、ポルシェなども2022年にスイスやドイツで同様の実証実験を予定している。
さらに屋根置き太陽光の義務化を検討している東京都ではV2Hに100%の補助金を、EVにも最大75万円の独自の補助金を用意し、電力不足の軽減を図っている。ただし現在の仕組みは自家消費が主な目的であり、残念ながら需給のひっ迫時の売電によって利益を得ることは難しい。既に普及が進んでいるEVやV2H機器を活用するためにも、今後の国やV2H機器メーカー、電力会社による新たな仕組みづくりに期待したい。