空港「保安検査場」に忍び寄る危機 理不尽クレーマーにたじろぐ現場、早急改善で離職防げ

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あまりにも報われない空港の保安検査業務。その実態とは。

なぜ航空会社は保安検査場を設定できるのか

空港(画像:写真AC)
空港(画像:写真AC)

 そのきっかけとなったのは、2019年の年末に起きた日産自動車元会長のカルロス・ゴーン氏による国外脱出だ。ビジネスジェットは保安検査があまり厳しく行われていないことの裏をかき、荷物の箱の中に潜んで航空機に乗り込むことに成功した。これが大きな問題となり、保安検査のあり方を見直すことになった。

 また2019年9月の大阪の伊丹空港では、乗客の手荷物の中に刃物が入っており、金属探知機で判明したにもかかわらず、係員がそれを乗客に返してしまい、そのまま通過させてしまうというアクシデントもあった。結果、28便が欠航し、10便に遅れが生じる事態が生じた。

 保安検査場には、一般客が利用する検査場に加え、航空会社が独自に設けている常顧客のための専用の保安検査場がある。この乗客は、その専用保安検査場を利用したという。いわゆるリピーターだが、そのなかには自身の要求を「ごり押し」をする人も多い。

 大都市空港では、常顧客のなかでもさらに上位層のためのファーストクラス・レーンを設けている。関係者に話を聞くと、これら3種類のレーンで、係員がもっとも担当するのを嫌がるのは、ファーストクラス・レーンを利用するには至らない常顧客が利用するレーンだという。マイラー(マイルを貯めている人)と呼ばれる人々のなかで、まだこうしたサービスを受けて間もない人々が居丈高(人を威圧すること)になるケースが多いという。いかにもうなずける話だ。

 ここで、皆さんは疑問に思わないだろうか。

「なぜ航空会社は独自に保安検査場を設定できるのか」

と。

 一般にはあまり知られていないが、保安検査業務は、航空会社が実施主体として運営している。これは世界でも珍しい形態で、多くの国々は航空会社ではなく

・国
・空港会社

が直接の担い手となっている場合が多いのだ。

 当初の話題に戻そう。なぜ保安検査をもっと自動化できないのか。高度な技術を導入すればスピーディーかつ正確に行えるのではないか。これに対する答えは、コスト負担が大きく、大規模に導入する財政的余裕がないためだ。特に直接の担い手である航空会社は、昨今のコロナ禍で、経営的に非常に厳しい環境に置かれてきた。とても保安業務に大きなコストをかける余裕はない。

 これは、保安検査に関わる職員の処遇にも関わってくる。前述のとおり、保安検査員は乗客にとっては「あまり好ましくない相手」とみなされがちで、精神的にプレッシャーを受けている。場合によっては、暴力を振るわれる危険性もある。2022年の法改正で初めて、保安検査員に検査を行うことにともなう法的権限が明確化された。これまではその権限さえ明確な形で与えられていなかったのだ。

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