存続危機の地方航路 青森「シィライン」2023年廃止に見る、自治体間対立の闇

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2022年5月、青森市とむつ市脇野沢、佐井村を結ぶ航路事業を行うシィラインが2023年3月での航路廃止を決めた。その背景にあるものとは。

会社分割で存続、その後も降りかかる経営危機

脇野沢漁港付近の様子(画像:(C)Google)
脇野沢漁港付近の様子(画像:(C)Google)

 下北汽船がそんな赤字航路から手を引き、2005(平成17)年、新たに設立されたシィラインへ事業が譲渡された。

 それまで毎年2800万円の補助金を支出してきた青森県が、経営が改善されなければ補助金継続は難しいとして、航路の廃止を含めた検討を求めたためだ。これに対して、むつ市など下北半島の市町村からは存続論が噴出した。その結果、下北汽船を

・青森~佐井航路
・脇野沢~蟹田航路

で会社分割することにより、存続が決まった。

 2005年当時、存続への熱意は高かった。シィラインは当初、資本金1000万円で設立された。2005年12月には、各市町村から出資を募り8000万円の増資が行われている。地元民から、1株5万円で1000人ほどの出資者を募り、地元の力で交通機関を維持する雰囲気もあった。この試みは成功。2006年7月、500人あまりの出資者によって7000万円増資に成功している。

 しかし、苦境は続いた。2006年の決算で赤字額は3700万円となった。取締役を派遣していた青森市が

「今後は株主として支援する」

として、職員を引き上げるなどの混乱が見られた。

使用済み燃料中間貯蔵施設の問題

大間原子力建設所(画像:(C)Google)
大間原子力建設所(画像:(C)Google)

 さらに事態を複雑にしたのが、青森県が2004年に打ち切った補助金を、新会社になった後も再開しなかったからだ。その背景にあったのが、当時、むつ市で計画が進んでいた使用済み燃料中間貯蔵施設の問題だった。

 この施設に対する国の「核燃料サイクル交付金」は県を通して、地元に支払われる形だった。さらに、下北半島の先端に位置する大間町で計画されていた大間原子力発電所に対する交付金の配分もあり、県と下北半島の市町村は重層的な対立構造にあった。これが支援再開を遅らせたのだ。

 結局2008年3月になり、県は赤字額半分の補填を決定、乗客も3割近く増加した。しかしこの時点がピークだった。

 新造船の導入で荒天時の運休は減り、乗客が増えたものの、赤字を補助金で穴埋めする体質は変わらなかった。2015年8月にはふたりの船長のうち、ひとりが退職、もうひとりも退職を検討していることが発覚し「今月中にも運休」と報じられる事態になった。

 退職理由は明らかではないが、船長がいないため運休というのは、なかなか珍しいケースだ。結局、新たに3人の船長を採用することで運休は回避されたが、困難は続いた。

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