被害総額100億円以上 「日立物流」倉庫放火事件で露呈した、サプライチェーンの脆弱性と重要性

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2021年11月、大阪市此花区の人工島・舞洲にある「日立物流西日本」の倉庫で放火事件が起きた。物流が絶たれるということは、どういうことなのか。

サプライチェーンとは何か

サプライチェーンのイメージ(画像:写真AC)
サプライチェーンのイメージ(画像:写真AC)

 この事件はその被害規模の大きさから、物流拠点のトラブルが及ぼす多大な影響を世間に知らしめた。

 現在、多くの企業が巨大な配送拠点に在庫を集約し、注文に応じて配送するシステムを採用している。このシステムは確かに効率的だが、ひとつのトラブルが発生すると長期にわたり損害を及ぼすことになる。

 ここで改めて意識したいのが、サプライチェーンの維持には膨大なコストがかかるということだ。サプライチェーンとは製品の原材料・部品の調達から、

・製造
・在庫管理
・配送
・販売
・消費

までの一連の流れを指す。

 販売時点情報管理(POS)システムなどのITシステムが発展したことで、世の中の多くの消費物はこのような流れに置かれている。

 しかし、極めてもろい面もある。2021年、自動車メーカーのサプライチェーン維持が問題となった。新型コロナウイルスの感染拡大以降、世界的な半導体不足が発生した。車載用の半導体は2020年秋から不足が顕在化していたが、

・寒波被害でアメリカのサムスン電子の半導体工場や化学プラントが停止したこと
・ルネサスエレクトロニクスの那珂工場で火災が起きたこと

で、出荷量が減少した。

 結果、日産自動車ではアメリカ・メキシコ・日本で、トヨタ自動車ではアメリカとチェコで一部の工場の生産調整を余儀なくされるに至った。これは少し歯車が狂っただけでも、世界的に影響が広がることを示す事例だ。

 2022年に入り、「上海ロックダウン」が多くの業界のサプライチェーンに混乱を生じさせた。例えば、国内の毛織物生産地が集積する尾州産地(愛知県一宮市、稲沢市、津島市、愛西市、江南市、名古屋市および岐阜県羽島市、各務原市)では、秋冬用の生地の生産期に業務が滞る事態に陥った。国内から海外へ、糸の生産と在庫が移転していたためだ。

 これまでは物流体制が整備されていたこともあり、糸を都度買い付けることで在庫を圧縮できていた。しかし、上海ロックダウンで物流がストップしたことにより、新たに調達先を探さなければならなくなった。

 サプライチェーンの進化には、在庫を抱えることなく安価に必要な原料を確保できる利点があった。一方、国内では最低限の原料も生産しない状況を生み出してしまったのだ。

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