都心から西へ300km! 運よく「超長距離客」を乗せたタクシー運転手がまず最初にすべきこととは?
一瞬、頭をよぎる「乗り逃げ」の不安
東京都内では約4万7000台のタクシーが、都心から下町、住宅街まで、まさに迷路のような道を日夜走り回っている。ここでは現役タクシー運転手の筆者が見てきた現場でのエピソードを紹介しつつ、タクシー業界が抱える課題を取り上げてみたい。
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タクシー運転手は仕事柄、予定のない事故のたぐいに巻き込まれることがある。また驚くほどの長距離客に当たることもある。
走ったこともない道路経路を、初対面の乗客とともに何時間とタイヤを転がしていく心細さ、説明のつかない不安さは、経験した者でないとなかなか分からない。
正直に言えば「このお客さん、本当にお金を持っているのかなあ、どこかでドロンされないかなあ。大丈夫かなあ」という心配もある。何たって相手の素性がこちらには分からないのだから。
タクシーをネタにした漫才や落語も数知れず、人間交差点のような職業だ。毎日のオチのないネタが次々と、尽きることはない。
長距離客を乗せた際、まずすること
筆者は以前、東京都心から静岡の浜名湖まで走ったことがある。その距離およそ300km。親子3人客だった。詳しい事情は割愛するが、新幹線ではなくタクシー選ばざるを得ない理由があったようだ。
超が付くほどの長距離客を乗せる場合、必ず会社に連絡することになっている。運行係に電話をすると、的確な指示を仰げるのだ。
「とにかく安全運転でお願いしますお客さんに断ってまずは燃料を満タンにしてください。帰りは××サービスエリア(SA)でガスを入れるのがいいでしょう」
「トイレ休憩の場所も考えながら走ってください。(目的地の最寄りの)SAは一般道に降りられないはずなので、その手前で降りることになるはずです。東名高速は行き過ぎると長い距離を戻らなくてはならないので注意して。それから料金には帰りの高速代も請求するように」――
極めて適切な指示をくれるので、これから未知の長距離を行く運転手にとって心強い。また超長距離の場合、運転手も乗客も疲れが出るので、こちらからあまり積極的に話しかけることはしないように努めた。