深刻なウクライナ穀物の輸出停止! 代替輸送の本命は「ドナウ河」かもしれない

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ロシア・ウクライナ紛争で、「ヨーロッパのパンかご」と呼ばれるウクライナの穀物輸出が大幅に停滞し、国家財政への影響も計り知れない状態となっている。

ショートカットの運河を通って危険回避

ルーマニア(画像:写真AC)
ルーマニア(画像:写真AC)

 普通に考えれば河幅も広く8000トンクラスの船が通れる本流を使う方がいいが、前述のようにこの部分はウクライナとルーマニアとの国境をなし、換言すれば河の半分はウクライナ領。つまりロシアの空爆を受ける可能性もあり、これに関連して船舶にかける保険料もアップしているからだろうか、河口と約60km上流のキリアとの間を航行する船舶の数が極端に少ないように思える。

 一方これとは逆に本流のすぐ南で、黒海とドナウ河を東西に結ぶ「ダニューブ・スリア支流」(全長約70km)を使う艀も多いようだ。こうした状況は、世界の船舶の動きをリアルタイムで把握できる有名Webサイト「MarineTime.com」で確認できるが、単に航行距離が短くて済むだけの理由なのだろうか。

 いずれにせよ、これらの船舶は黒海に出たらすぐに舵を右に切り、ロシア側が攻撃できない北大西洋条約機構(NATO)加盟国のルーマニアの領海内を南下するのが鉄則だ。こうして約150km先のコンスタンツァに入港し、大型バラ積み船に積み替え、というのが代替ルートの概略である。

 ただし平底の艀は基本的に波の高い海での航行に不向きなため、河川と運河だけのルートを選ぶ艀も多い。この場合、河港を出発したらいったんドナウ河を“逆流”して安全なルーマニア領に入り、60~80km先のチェルナヴォタで「ドナウ・黒海運河」に針路変更して東進、直結するコンスタンツァに向かう。なお各河港~コンスタンツァの所要時間は、渋滞がなければ大体10~12時間と推測される。

鉄道貨物なら5km、トレーラーは10km

ドナウ河(画像:写真AC)
ドナウ河(画像:写真AC)

 ここで「河船の区間も鉄道やトレーラーで運んだ方が積み替え作業も少なくて済み効率的では」と思うかもしれない。ところがルーマニアの道路・鉄道事情はウクライナ以上に悪く、そもそもウクライナの河港~コンスタンツァ間を最短でつなぐ主要道路や鉄道が存在しない。それどころか両国を直結するドナウ河の橋梁すら1本もないのが実情だ。

 鉄道やトラックに比べて、船舶の方が一度に運べる荷物量や物流コスト、さらには運搬手段の確保の点からも極めて有利だろう。ちなみに前述した艀6隻連結の輸送能力1万8000トンを40ftコンテナ(48t)で換算すると単純計算で375個分となるが、仮に貨物列車で一気に運ぶと列車の長さは5kmを超え(40ftコンテナ2個積みコンテナ車の全長は約27m)、同様に40ftコンテナ1個積みのトレーラーは375台で約10kmに達する。しかも後者の場合はドライバーの確保も大変だろう。

 仮にふたりシフトと仮定すれば最低でも750人が必要で、加えて化石燃料高騰の中燃料代もバカにならない。しかもこれから夏のバカンス・シーズンを迎え、ルーマニア国内はもちろん、欧州連合(EU)各国から黒海沿岸のリゾート地にマイカーが殺到し、ただでさえ貧弱なルーマニア国内の幹線道路は連日大渋滞に襲われる。穀物積載のトレーラーの輸送力はさらに低下すること必至だ。

 これに対し6連結の艀ならば、長さは300m弱、幅約23mで乗組員も数名で済む。ウクライナはドナウ河ルートで当面70~75万t/月の穀物輸送が可能だと自信を見せる。恐らく徐々に慣れてくれば数か月後には数百万t/月も十分可能だろう。仮に100万t/月を目指す場合、必要となる6連結の艀の数は約56隻(艀の総数は336隻)となる。かなりの規模だが、新造したりヨーロッパ中で調達したりすれば実現可能だろう。

 ただ、肝心のコンスタンツァ港の能力がすでに限界に達している模様で、現在港湾能力アップの工事が急ピッチで進められている。加えてオデーサ~各河港間の直通道路が事実上1本だけのため(他にモルドバ経由の道路が1本)、ここが物流ルートの“チョーク”になる可能性が高い。しかも海岸沿いを走るためロシア軍の攻撃にも弱いだろう。

 ウクライナによる穀物代替輸送ルートの試行錯誤はまだまだ続きそうである。

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