函館線「長万部~函館」存廃問題 もはやJR貨物の手に負えず、国も自治体も膨大赤字にダンマリの現実

キーワード :
, , , ,
在来線を残すのか、廃止するのか――。北海道新幹線の札幌延伸を前に、JR北海道から経営分離される長万部~函館間の存廃が問題となっている。

存廃が問題になっているワケ

札幌、長万部、函館の位置関係(画像:(C)Google)
札幌、長万部、函館の位置関係(画像:(C)Google)

 長万部~函館間の存廃はなぜ問題となっているのか。それは、

「貨物輸送があっても赤字が避けられない」

ためだ。

 2021年4月に北海道が公表した収支予測によると、国や北海道の補助金が無かった場合は、経営分離後30年間の累積赤字が944億円になるとしている。仮にJR貨物からの貨物調整金などを加えても、赤字は避けられないのだ。

 一方、たとえ赤字になっても長万部~函館間を「維持すべき」という声は大きい。旅客だけで見ると、この区間の需要は今後激減すると見られている。同月に北海道が公表した予測では、長万部~新函館北斗の将来の輸送密度(1kmあたりの1日平均利用者数)は

2030年度:95人
2060年度:81人

となっている。これは、JR北海道がバス転換基準としている「200人未満」を大きく下回る数字だ。

 一方、貨物輸送の需要は多い。もちろん、道内から出荷されるタマネギやジャガイモなどの農産物だけではない。本州から道内へ送られる宅配便やネット通販などの輸送には、鉄道が多く使われている。

 北海道での鉄道貨物の取り扱いは、国鉄民営化以降、トラックに押される形で減少したものの、21世紀に入ると回帰の動きが目立つようになった。定時性に加えて、「二酸化炭素排出量の少ない輸送手段」として見直されたためだ。とりわけ天候などの理由でフェリーなどの海上輸送が停滞した時の輸送手段として、鉄道貨物は欠かせない。

 つまり、長万部~函館間は

「廃止するわけにはいかないが、国も北海道も自治体も膨大な赤字をかぶりたくないので、決断を先延ばしにしている」

というのが実体といえる。

 前述の北海道の予測した赤字額をさらに詳しく見てみると、経営分離後30年間の累積赤字は約944億円だが、JRから土地や車両が譲渡される初年度に約317億3000万円が必要となる。その後、毎年の赤字額は約18億8000万円。鉄路は維持したいが、どの自治体も「無い袖は振れない」というわけだ。

全てのコメントを見る