なぜ大型施設のない「高円寺」が世界8位に選ばれたのか? 古着店やバーが並ぶ街を世界が評価! 均質化が進む都市で何が起きているのか――個性を守る地域の「価値」とは
世界8位・高円寺の「歩く」経済学

東京の多くの街は、駅から目的地まで最短距離で移動することを前提に作られている。しかし、高円寺は趣が異なる。駅を出た直後から商店街が広がり、脇道に入れば飲食店や古着店などの個人店がひしめく。目的地へ向かう徒歩での移動そのものが、街を楽しみながら消費する行動につながっているのだ。
現代は目的を絞った効率的な消費と移動が極限まで進んでいる。そうした時代において、高円寺が持つ「徒歩」という低速の移動の価値は、世界的な評価を得た。グローバルシティガイド「タイムアウト」が発表した2026年版「世界で最もクールな街」で、高円寺は
「世界第8位」(日本では大阪・北加賀屋の6位に次ぐ順位)
に選ばれている。今年で9年目を迎えるこの都市ランキングは、26か国・地域の40エリアを対象に、専門家やローカルエディターの審査で決まる。基礎となる調査プロジェクト「Best Cities」は2026年6月、英国出版業界団体のPPAアワードで「年間最優秀データ企画」を受賞するなど、国際的にも客観性の高さが評価されている。
巨大な駅ビルやモールでの資本集約型の消費ではなく、歩いている途中に偶然見つける店舗や体験など、ネットのアルゴリズムでは置き換えられない独自の経済価値が評価された結果だろう。タイムアウト東京代表の伏谷博之氏が今回の発表で
「大規模開発で生まれた街よりも、人の営みを感じられる街が選ばれています」(プレスリリースより)
と指摘するように、高円寺はジェントリフィケーション(均質化)に抗い、コミュニティーの結びつきと街の個性を守ってきた点が評価された。プレスリリースでも「しげくに屋55ベーカリー」や古着店「HIGAN」、老舗銭湯「小杉湯」、ライブハウス「東高円寺二万電圧」といった多種多様な個人店の営みが具体的に挙げられている。
JR高円寺駅の北口には高円寺純情商店街や庚申通り商店街、南口には高円寺パル商店街や高円寺ルック商店街などが広がる。では、なぜ高円寺では徒歩での移動そのものが目的になるのだろうか。その背景には、店が多いというだけでは説明できない、移動と消費が密接につながった独自の空間構造がある。