なぜ日本人は「新車」を買い替えなくなったのか? 平均購入価格331万円! トヨタが「いま乗っているクルマ」に仕掛けることとは?――後付けと更新で広がる新たな市場
愛車に長く乗り続ける所有の未来

いまのところ、日産自動車やホンダ、スズキといった国内勢は、ペダルの踏み間違い防止装置の後付けなど個別対応にとどまる。リフォームから最新ソフトの更新、乗り手に合わせた調整までを一つの枠組みで全社展開する動きでは、トヨタの一歩リードは否めない。
もっとも、継続課金モデルへの移行には壁もある。なかでも大きな問題が、販売店(ディーラー)網との利益のぶつかり合いだ。日本の自動車販売店は、車検や整備、部品販売などのアフターサービスで粗利益の約48%を稼いでいる。通信経由のソフト更新が当たり前になれば、来店頻度が減り、整備収益が落ち込む懸念は拭えない。トヨタがアップグレードファクトリーを既存の販売店主導で進めるのは、作業工賃など現場の仕事を残し、販売網とともに生き残る道を探っているからにほかならない。
また、Apple(CarPlay)やGoogle(Android Auto)といったIT大手との車内空間を巡る争いも激しさを増す。顧客との接点を外部に奪われれば、将来の稼ぎ口がIT企業へ流れてしまう。常時接続にともなうサイバー攻撃のリスクに対しては、国連が定める国際法規(UN-R155/156)にも配慮しながら、安全な仕組みを守り続ける手間がかかる。
数々の課題はあるものの、物価高が続くなかで機能を後から足したいという需要は膨らみ続ける。新車を売るだけで十分な利益を出せる時代は過ぎ去りつつある。市中にある走行車両のストックから着実に収益を生み出せるかどうかが、これからのメーカーの命運を分ける。
中古車といえば新車より安いことが一番の魅力だった。しかし今後は、機能の後付けや更新が当たり前になることで、新車と中古車の境界線はだんだんと薄れていく。内外装のリフレッシュだけでなく、安全機能やソフトウェアまで新しくなる世界は、自動車市場のあり方を根本から変える変化といえる。
メーカーにとっての稼ぎ場は新車から既販車へ広がり、街を走る1.5億台すべてがビジネスの対象になる。利幅の薄かった中古車販売は、さまざまな機能を後付け・更新することで利益を生み出す土台へと姿を変える。新車の売り切りから離れ、乗り手と長く付き合っていく形へ、メーカーとユーザーの関係は変わり始めている。
トヨタの試みはまだ始まりに過ぎず、その先にはSDVというさらに大きな波が控えている。他の国内メーカーがこの流れにどう向き合うかが注目される。物価が高く新車に手を出しにくい状況が長引くほど、いま乗っている車の価値は増していく。最新技術を取り込みながら一台の車に長く乗り続ける――そうした新しい所有のあり方が、次の自動車産業における主導権争いを左右していくはずだ。