なぜ世界のコレクターは「30年前の日産車」を奪い合うのか? プレミアム価格での取引が過熱! 海外へ広がる「レトロJDM」の熱狂とは
バブル期に誕生した日産のパイクカーが、30年の時を経てストック型資産へと昇華している。倍率20倍超を記録したフィガロは米25年ルールなどの海外需要で高騰し、国内では新車の4倍超となる700万円で取引される例も。感性重視の戦略が生んだ歴史的価値と、世界的な保全エコシステムの全貌に迫る。
多国籍な保全網が支える歴史的価値

世界規模での旺盛な買い付け需要の裏返しとして、日本国内の中古車流通量は落ち込み、深刻な品薄と価格高騰を招いている。フィガロの極上個体には、新車価格の実に4倍に迫る700万円超えのプレミアム価格が提示されるケースも珍しくない。
この市場環境と老朽化のなかで、パイクカーの資産価値を技術面から支えているのが専門事業者たちの地道な取り組みである。横浜市に拠点を置く老舗専門店オレンジロードは、製造元の高田工業との提携を通じ、当時の生産技術を知る職人の手による5工程55項目に及ぶフルレストアを展開している。
日本が世界に誇るべき文化遺産を、安易に海外へ流出させてはならないという毛利雅之代表の強い思いから、海外への輸出販売を一切行わない独自の国内循環保護方針を貫いている。
国内では純正部品の廃番が進み、日常的なメンテナンスすら難しくなりつつある。ここで機能しているのが、皮肉にも海外のJDM熱から生まれた多国籍な部品供給網だ。英国の専門店The Figaro Shopが自国市場のために投資を行って独自開発した高品質なリプロダクト品(ブッシュ類やメッキモールなど)が、インターネットを通じて日本国内へ逆輸入され、日本の専門店の動態保存を支えているのである。
日産がバブル期に蒔いた遊び心の種は、一過性のレトロ車ブームにとどまらず、のちのフォルクスワーゲン・ニュービートルやBMW MINIなど欧州メーカーが展開したリバイバルデザインの先駆者となった。その歴史的意義は公に認められ、2021年には第1弾のBe-1が日本自動車殿堂の歴史遺産車に選ばれている。
国境と世代、そして職人たちの情熱に支えられたパイクカーは、色褪せることのないストック型資産として、これからも世界の路上で走り続けるだろう。