月額わずか1200円! 6月スタートのドイツ「乗り放題チケット」は公共交通の在り方を変えられるか?
交通事業者からの不満も
ドイツのヴォルカー・ウィッシング運輸大臣は
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「公共交通機関を利用する全ての人は、ロシア産エネルギーへの依存からの脱却、および気候変動対策の推進に寄与している」
と、各州の運輸大臣との会合で述べている。なお、この9ユーロチケットの施策には、政府により25億ユーロ(約3400億円)が投入される見込みだ。
一方で、
「秋以降に、エネルギー価格の高騰に伴う運賃の値上げがあるのではないか」
との懸念の声も上がっている。
バーデン・ビュルテンベルグ州のヴィンフリート・ハーマン運輸大臣のほか大臣有志が連名で、高騰するエネルギーコストを補うために15億ユーロ(約2000億円)の追加支出を行うようにドイツ政府に圧力をかけている。
また、交通事業者からの不満の声も聞こえてきている。本制度用のチケットやプラットホームの準備作業に追われているとのことだ。また、定期券利用者への対応も負担になっているという。
というのは、年間定期券や自動引き落としの定期券利用者に対して、9ユーロとの差額の返還あるいは決済額の変更手続きが必要になるからだ。
公共交通の利用促進につながらない?
9ユーロでドイツ国内を移動できるこのチケットは、バカンスシーズンの観光客には魅力的だ。また、自動車通勤者に対して公共交通の利用を促す効果も期待されている。
このような期待とは裏腹に、たとえ低価格で公共交通機関を使えるとしても、自動車ユーザーが
「たった3か月のチケットで公共交通機関の利用にシフトするとは思えない」
との指摘もある。
ドイツ公共放送(ARD)による9ユーロチケットに関するアンケート調査によると、都市部では60%が利用すると回答したが、地方では40%にも届かなかった。そもそも地方は自動車社会であり、かつ公共交通機関が少ないことに起因している。
自動車の技術認証を行っているTUV(テュフ)による移動に関する意識調査において、自動車の利用者がもっとも重視する項目は次のとおりであった。
・自在性
・スピード
・確実性
これらの項目は、安全性、コスト、快適性よりも上位に位置していた。ちなみに、環境保護は最下位とのことである。この調査結果からも、公共交通機関よりも自動車を使いたいというドイツ国民の意識がうかがわれる。
わずか3か月の9ユーロチケットで、永続的な公共交通の利用を促進するには無理があると筆者(山本哲也、交通ライター)は考える。しかし、今まで公共交通機関を利用したことがない、あるいはあまり利用しなかった層に対しては、利用機会を提供するという点において、一定の効果があるのかもしれない