「高齢者の危険運転を逃がさない」 試験合格でも事故「約4.5倍」はなぜ起きたのか? 揺らぐ安全基準、自動車業界に迫る変化とは
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立証難の解消と車載データビジネス

振り返れば、従来の制度のもとでは危険運転の認定ハードルが高く、世間一般には悪質と捉えられる事故でも同罪が適用されないケースが後を絶たなかった。
1999(平成11)年に東名高速道路で起きたトラックの飲酒運転事故を契機として厳罰化の世論が高まり、2001年に本罪は誕生した。飲酒や大幅な速度超過、ひき逃げ、あおり運転といった著しい過失を裁くはずが、現実には故意の有無や重大な過失の証明が難しく、刑の軽い過失運転致死傷罪にとどまる事例が目立っていた。
より深刻だったのは、厳罰化が皮肉にも引き起こした逃げ得の横行だ。重罰を恐れた運転者が現場から逃走し、体内のアルコールが抜けるのを待って出頭する。こうなると飲酒の立証は極めて難しくなり、最終的に科されるのは最高刑7年程度の過失運転と救護義務違反にとどまってしまう。被害者が即死するほど激しく衝突して逃走した方が、かえって刑が軽くなる。こうした法理的な矛盾が、遺族を深く苦しめる結果を生んでいた。
2021年に大分県で発生した事故も記憶に新しい。時速194kmで走行していた車が対向の右折車と衝突し、相手の運転手が死亡した一件である。この裁判で福岡高裁は進行の制御が困難な高速度には当たらないと判断し、危険運転致死罪の適用を見送っている。記者会見で想像した中で最悪な判決と語った遺族の言葉が示すように、加害者の重大な過失を客観的に証明しきれない現行制度は、被害者側にあまりにも重い負担を強いてきた。
今回の法改正による基準の明確化は、被害者に寄り添う司法環境を整えるという点で意義深い。それと同時に、車載データビジネスの拡大という経済的な側面も持ち合わせている。裁判で悪質性を客観的に証明するには、ドライバーの操作や車両挙動のデータが鍵を握る。コネクテッドカーが蓄積する走行実績やドライブレコーダー映像の価値は、ここへきて急速に高まった。
すでに自動車メーカーは、取得した車両データを損害保険会社と共有し、補償の可否やリスク評価を自動処理する新たなサービスを稼働させている。立証責任をテクノロジーが補完する体制が整うことで、メーカー側は単なる車両の製造・販売から、データを基軸とした高収益なサービス業へと事業領域を広げつつあるのだ。
もっとも、事後の処罰を厳格にするだけでは十分とはいえない。事故を未然に防ぐ制度のアップデートも急務である。そこで浮き彫りになってきたのが、高齢ドライバーに対する運転技能試験の限界だった。