なぜ日本人は「海水浴」へ行かなくなったのか? ピーク時9割減の根本理由とは? 崩れ始めた“遠出レジャー”の前提
ピーク時から88%減の440万人に激減した海水浴客。だが真の要因は海嫌いではなく、タイパを重視する消費者の移動意識の変容にある。猛暑や二次交通の不全が迫る移動コストの壁と、多機能空間へと脱皮を図る海辺の模索から、目的地と移動の価値が再編される移動しない時代の余暇経済を解き明かす。
酷暑化にともなう移動コストの急増

気候条件の激変も、行動様式に多大な影響を及ぼしている。
2025年6~8月の国内平均気温は平年を2.36度上回り、観測史上最高を記録した。かつて酷暑をしのぐ場所であったはずの海は、現在ではそこへ向かうまでの移動や砂浜を歩く行程、強い日差しの下で過ごす時間そのものが身体的な負担としてのしかかる。
自動車や公共交通の空調設備が発達し、移動中の車内が極めて快適な空間に保たれているからこそ、灼熱の砂浜へと足を踏み入れた際の環境ギャップは一層際立つ。出発前から現地滞在時に至るまで熱中症への警戒や入念な紫外線対策が要求されることも、外出の心理的ハードルを引き上げる一因だ。
大阪府阪南市の箱作海水浴場を例にとると、1990(平成2)年に20万人を数えた利用客数は、2025年には2万人へ激減した。猛暑や余暇の多様化が重なり、開設コストに見合う客数の確保が困難になったとして、ついに2026年の開設中止が決まっている。
健康的な夏の象徴とされた日焼けも、今や徹底した防備の対象である。インテージの集計データによると、2025年の日焼け止め市場規模は843億3000万円に達し、過去5年間で約2倍に膨れ上がった。生活者の認識のなかで、海は暑さと紫外線への厳重な対策を強いられる場所へと書き換えられている。