「クルマは作れてもメーカーにはなれません」 なぜ日本では新興自動車メーカーが生まれないのか? EV時代でも立ちはだかる“見えない壁”とは
新規メーカー誕生を阻む巨大な壁

日本の自動車産業は、約559万人の雇用を支え、輸出総額の約2割を占める巨大な基幹産業である。日本で新たな国産自動車メーカーが誕生しにくい最大の理由は、車を組み立てる技術力の有無にとどまらない。
型式指定の取得や量産体制の立ち上げ、全国をカバーする販売・整備網の維持、さらには車両売却後の品質保証や長期にわたる補修用パーツ供給など、車両のライフサイクル全体を支える総合力と、巨大な産業エコシステムの構築が求められるためである。こうした継続的な事業基盤の維持と巨額の資金調達が必要とされる産業構造そのものが、新規参入における大きな参入障壁となっている。
その障壁を乗り越えた稀有な存在が光岡自動車(富山県富山市)だ。日本の主要な乗用車メーカーが確固たる基盤を築くなかで、同社は1996(平成8)年4月、独自開発の鋼管スペースフレームにマツダ製パワートレインを搭載したスポーツカー「ゼロワン」で型式認定を取得した。
本田技研工業以来32年ぶりとなる国内10番目の乗用車メーカーとして大きな注目を集めた。既存メーカーのプラットフォームや基幹部品を活用しながら独自のデザインや個性を生かす手法は、巨大な固定費リスクを抑えつつ自社の強みにリソースを集中させる合理的な事業展開の形を示した。
その後、2015年には川崎市中原区を拠点とする電気自動車(EV)ベンチャーの日本エレクトライクが、光岡自動車以来19年ぶりとなる型式認定を取得し、16番目の自動車メーカーとして三輪EVの生産を開始して話題を呼んだ。しかし、こうした事例が示すように、一般乗用車メーカーとして広く市場に定着し、長期にわたりビジネスを展開する企業の誕生は極めて稀である。
では、なぜ日本において新規参入がこれほど多角的な準備を必要とするのか。既存の仕組みのなかで参入障壁がどのように形成され、現在の産業構造へつながっているのか、その仕組みをひも解いていく。