「なぜ140km/hでも適用されなかったのか」 危険運転の線引きはどう変わる? 新たな認定基準が問う運転責任とは
危険運転数値基準の導入

2026年7月21日、危険運転致死傷罪の適用要件を見直す改正自動車運転処罰法および改正道路交通法が施行された。
今回の改正では、危険運転致死傷罪の適用要件として、速度超過や飲酒運転に初めて明確な数値基準が導入されている。危険運転の判断基準を巡る課題を受け、適用の透明性向上を図り、客観的な条件を明確化することが目的とされている。
数値基準導入の意義と背景

「危険運転」と聞けば、多くの人は極端な速度超過や飲酒運転を思い浮かべる。しかし、これまでの法律では
・進行を制御することが困難な高速度
・正常な運転が困難な状態
といった構成要件が曖昧であったため、実際の適用が極めて難しいという課題があった。時速140kmを超える高速度での死亡事故や、悪質な飲酒運転での死亡ひき逃げ事故などにおいても同罪の適用が見送られるケースが多発し、事案ごとに適用のばらつきが生じていた。その結果、類似した事故であっても適用判断が異なるケースが生じ、交通事故の遺族やマスコミから強い批判と基準の明確化を求める声が上がっていた。
こうした適用困難問題を受け、2025年2月に法務省は法制審議会に対し、速度超過と飲酒についての明確な数値基準の新設や、タイヤを滑らせる「ドリフト走行」を要件に追加する等の見直しを諮問しており、これが今回の法改正の直接的な土台となっている。
施行された改正法では超過速度やアルコール濃度に基づく一律の数値基準が導入され、最高速度が時速60km以下の道路では50km以上、60kmを超える道路では60km以上の速度超過が危険運転の基準として規定された。例えば、最高速度が時速30kmに制限されている道路において、時速80km以上で死傷事故を起こした場合にはこの基準に該当することになる。
また、飲酒運転に関する数値基準としては、呼気1L当たりのアルコール濃度が0.5mg以上と定められた。道路交通法において飲酒運転は「酒気帯び運転」と「酒酔い運転」に分類されている。これまで、酒気帯び運転は呼気中アルコール濃度に基づく形式的な数値基準で判断される一方で、酒酔い運転はアルコール濃度の数値に関係なく
「正常な運転ができないおそれがある状態」
であるかどうかで判断されてきた。同日に施行された改正道路交通法における「酒酔い運転」の規定にも数値基準が追加され、危険運転致死傷罪のアルコール濃度基準が準用されることになった。この改正による酒酔い運転への数値基準追加は、従来の曖昧さを是正するものといえるだろう。
今回の改正は刑罰を重くしたことだけが本質ではなく、「危険」と判断する
「客観的な基準」
を社会全体で共有しやすくした点に大きな制度的意義がある。一方で、この数値がそのまま危険運転か否かを決める絶対的な境界線ではない点にも注意が必要だ。
法令では、基準を下回る場合でも、道路状況や交通環境、運転態様などから正常な運転が困難と判断されれば、危険運転致死傷罪が適用される可能性を残している。数値基準は判断の透明性を高める役割を果たす一方、実際の事故では個別事情も引き続き重視されることで、制度運用に一定の柔軟性を持たせているのだ。