なぜ試験に合格した「高齢ドライバー」ほど事故を起こすのか? 「事故率2.8倍」が浮き彫りにした、運転評価の転換点
合格者事故率2.8倍の衝撃

「運転技能検査(実車試験)に合格したのだから、安全性は一定程度担保されているはずだ」――そう考えるのは自然だろう。しかし、警察庁が公表した追跡調査は、その前提を揺さぶる結果となった。
背景には、日本の急速な人口動態の変化がある。日本はすでに65歳以上の高齢者の割合が人口の21%を超える超高齢社会に突入しており、2020年時点での高齢化率は28.8%に達している。
高齢ドライバーによる死亡事故やペダル踏み間違い事故が社会問題化する中、道路交通法の改正により導入されたのが、75歳以上で一定の違反歴があるドライバーに対する運転技能検査だった。実際のコースで一時停止等の課題を行い、第一種免許では100点満点中70点以上を合格基準とするこの制度は、高齢者対策の切り札となるはずだった。
警察庁は、この実車試験の合格者5270人と、違反歴がなく通常の高齢者講習を受講した75歳以上8233人について、合格・受講後の約2年間を追跡した。その結果、10万人当たりの事故件数は、技能検査合格者が通常講習受講者の
「約2.8倍」
となった。年齢別では75~79歳で約4.5倍、80~84歳で約2.3倍、85歳以上でも約2.6倍だった。
もちろん、統計学における仮説検定の観点から見れば、この数字だけで直ちに技能検査が事故を増やしたという因果関係を結論付けることはできない。両グループにはそもそも過去の違反歴の有無という前提条件(交絡因子)の違いがあり、技能検査受検者はもともと事故リスクが高い集団であるためだ。
それでも、試験に合格すれば安全が担保されるという認識に強力な疑義を投げかける証拠としては十分であり、試験に合格した人ほど事故率が高いという事実は、現行の短時間の実車試験が
「どこまで実効性を持っているのか」
という新たな問いを突きつけている。今回の調査が示した論点は、高齢ドライバーは危険かという単純な話ではないだろう。問われているのは、現在の検査は、
「事故につながる運転特性を適切に見極められているのか」
ということだろう。