自動車業界を直撃 「半導体不足」に特効薬なし まずはDX推進で「4つのゴール」目指せ
問題解決に必要なサプライチェーンの見直し

新型コロナウイルス感染拡大を契機とした世界的な半導体不足は、自動車業界に深刻な影響を与えた。サプライチェーンは混乱が続き、世界中の専門家が喚起を促しているが、いまだに解決には至っていない。
本問題の原因をシンプルに表すと、需要を満たすだけの半導体が存在しないということにつきる。各ステークホルダーの損失を軽減するための短期的な戦略はあるものの、本質的な問題の解決には、長期的な戦略としてのサプライチェーンの見直しが不可欠だ。
本記事では、これまでの半導体不足問題を振り返りつつ、長期的なデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性について説明する。
半導体不足の現状

近年、自動車が文字通り「車輪付きのスマートフォン」になりつつあるなかで、燃料圧力センサーから駐車場やガソリンスタンドの検知、オイル交換を警告するデジタル速度計や人工知能(AI)ツールに至るまで、さまざまなアプリケーションが搭載され、それに伴って半導体の位置付けが重要になっている。
半導体がなければ、メーカーは注文を完了することができず、自動車業界のパンデミック(世界的大流行)からの回復は停滞したままだ。
一部の試算によると、世界の生産台数に与える影響は7~800万台と予想され、大手自動車メーカーは半導体不足を理由に大幅な減産も発表している。
日本においても、日本自動車販売協会連合会と全国軽自動車協会連合会が2022年4月に発表した2021年の新車販売台数は、前年と比べて9.5%少ない421万5826台にとどまっている。
本問題は、新型コロナウイルス感染症の拡大初期の数か月間を契機としている。パンデミックに伴い、欧州では自動車の販売台数が80%、中国では70%、米国では50%近く減少、新車の需要がないために工場が閉鎖され、半導体をはじめとする部品の注文が取り消された。
自動車メーカーが操業を停止したことで、半導体の供給業者は在庫と余剰な生産能力を抱えたが、この自動車業界の動きは近視眼的だったのかもしれない。
他業界ではテレワークでの需要増加に伴い、パソコンやタブレット、スマート家電の売り上げが急増し、これらのメーカーは喜んで半導体の在庫を確保し、その後手放すことはなかった。
半導体不足における各国の動き

結果、自動車業界においての影響は広範囲に及んだ。
工場が閉鎖されると、雇用が失われ、さらには経済のまひにつながる。米政府は半導体業界の幹部や欧州の関係者らと会合を開き、半導体不足を緩和するための長期的な解決策を模索しており、半導体製造を支援するために520億ドルの補助金を出す法律も可決している。
また、相手先ブランドによる生産(OEM)メーカーの中には、独自で半導体を開発しようとする企業もある。これによりサプライチェーンは制御できるかもしれないが、多くの専門家は経済的に非現実的だと考えている。自動車用の半導体は一般的には価値が低く、高コストの工場建設に投資した費用が回収できるまで何十年もかかると予測されるためだ。
ただ米テスラ社は、マイクロチップをフルセルフドライブシステム用に設計・製造しているため、その投資は実を結ぶかもしれない。同社は2021年の第2四半期に過去最高の台数を出荷し、純利益は初めて10億ドルを突破した。
一方で欧州連合(EU)は、半導体生産強化を目指すEuropean Chips Act(欧州半導体法)の策定を発表した。EU加盟国は、今後数年間で総額1600億ユーロ以上を半導体に投資することを計画しており、これはEUのパンデミック回復基金の約20%に相当する。EUは2030年までに世界の半導体生産の20%を担うことを目指している。