かつては「陸の孤島」――乗換駅ではない東京東部の街が、賃貸「3年連続1位」となったワケ
成約データが示す居住地選択の現実

一般に知られる「住みたい街」と、実際に生活の場として選ばれる街には、大きな違いがある。各種メディアで紹介されるランキングでは、知名度や街の雰囲気の良さが評価されやすい。一方、実際に入居契約を結ぶ際には、家賃や通勤時間、駅からの距離、周辺施設の充実度など、日々の暮らしに関わる条件が重視される。これは、生活者が移動のしやすさや住居費を具体的に考えながら、住む場所を選んでいることを示している。
その傾向を示すデータがある。エイブル総合研究所(東京都港区)は、グループ会社であるエイブルの2025年の成約データをもとに、東京都内のひとり暮らし向け物件を調査した。その結果、実際の契約実績で3年連続1位となった駅は「葛西」(主要路線:東京メトロ東西線)だった(2026年6月10日発表)。
同研究所のデータによると、1位となった江戸川区の葛西は、家賃中央値が7万円、年齢中央値が27歳で、2024年から順位を維持している。
調査対象は1R、1K、1DK、1LDKの単身者向け物件で、家賃は管理費込みの中央値で算出されている。市場全体の動きを完全に示すものではないものの、実際に住まいを決めた人たちが、どのような条件を重視したのかを読み取る材料となる。
葛西が支持を集め続ける背景には、鉄道による都心への移動のしやすさと、住宅費の抑えやすさがある。東京メトロ東西線が通る葛西駅から、日本有数のビジネス街である大手町駅まで「直通約20分」で移動できる。一方で、都心に近い門前仲町と比べると、家賃を約4割抑えられるという特徴がある。東西線沿線の家賃比較データを参照すると、大手町方面にある門前仲町駅の家賃中央値は11万2000円、南砂町駅は8万7000円であるのに対し、葛西駅は7万円にとどまっている。
通勤にかかる時間を大きく増やさず、住居費という毎月の負担を抑える選択は、効率を重視する単身者の暮らし方と合っている。特に住宅費の上昇が続く都市部では、街の印象だけではなく、移動時間と生活費のバランスが住む場所を決める要素になっているだろう。
ここで注目すべきなのは、特定の街が優れているという話ではなく、住む場所を選ぶ基準が変化している点である。以前は街の知名度や雰囲気が選択理由として大きな意味を持っていた。しかし現在は、都市全体の移動網の中でどれだけ便利につながるか、家賃に対してどれだけ利便性を得られるかといった、具体的な条件をもとに判断する傾向が強まっている。