なぜ企業はあえて“1路線駅”を選ぶのか? 勝どき「空室率4~5%台」へ急低下、都心枯渇が変える需要構造とは
ハブ駅枯渇と周辺への波及

東京のオフィス市場では、複数路線が交わるハブ駅周辺で空室が枯渇している。5路線以上が使える利便性の高いエリアの空室率は2022年から低下し始め、2026年3月には0.56%まで落ち込み、コロナ禍前の水準に回復した(三幸エステート、2026年6月4日発表)。
現場ではもはや物件を選べる状況になく、とりわけ丸ノ内や大手町周辺は空室率が1%に満たない駅も目立ち、数少ない部屋を複数の企業が奪い合っている。通勤負担の軽減や優秀な人材の確保を狙う企業の動きが集中した結果、中心部の物件不足は極めて深刻な局面にある。
このひっ迫を受けて、需要は外側のエリアへ波及している。鉄道が1路線しか通らないエリアの空室率は、2024年7月時点の8.78%から2026年3月には3.07%へと急激に下がり、驚くほどの勢いで部屋が埋まった。
都内で空室率が5%を上回る駅は、湾岸部や神楽坂など一部に限られている。なかでもコロナ禍後に空室が残り、2023年に空室率が20%台まで上昇したのが以下の湾岸エリアだ。
・勝どき駅(都営大江戸線)
・月島駅(東京メトロ有楽町線・都営大江戸線)
これまで晴海トリトンスクエアなどの大規模開発が進んできた勝どき駅は、乗降人員の急増にともなう大規模な駅改修を終えており、月島駅も2路線が乗り入れるなど実はポテンシャルが高い。こうした背景もあり、両駅周辺の空室率は足元でそれぞれ4%台、5%台にまで急改善し、湾岸への需要の流入が鮮明となっている。中心部から押し出された需要がインフラの整った新しい受け皿を見つけ、都市全体のオフィス需要が分散し始めている。
この動きを支えているのが、移動サービスの拡張だ。駅から離れがちな1路線駅周辺に向けて、自動車メーカーなどがシェアサイクルやオンデマンド交通を次々と投入している。こうした場所では、通勤だけでなく昼間の営業活動や近隣の物流など多様な目的で同じ移動手段が共有されるため、時間帯による偏りが減り、稼働効率が自然と高まる。
移動の利便性が増すほど、企業の拠点選びの選択肢も外へ広がる。ただし、2~4路線が通る駅の空室率はいまだコロナ前水準まで下がっておらず、地域の条件と移動の便利さがどこまで補い合えるか、エリアごとの調整が続いている。