赤字なのになぜ? ヨーロッパ各国が「夜行列車」を増やし続けるワケ

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オーストリアのウィーンからフランスのパリを結ぶ夜行列車が運行を開始した。欧州各国の鉄道事業者が連携して、路線を拡張する計画まで存在している。

路線を拡張するヨーロッパの夜行列車

ドイツ鉄道のウェブサイト(画像:オーストリア連邦鉄道)
ドイツ鉄道のウェブサイト(画像:オーストリア連邦鉄道)

 ウィーン~パリ間の夜行列車は、OBBが運行する「Nightjet(ナイトジェット)」の一路線である。ナイトジェットは、ウィーンを起点としてフランス、ドイツ、スイス、イタリアなどの20都市を結んでいる。加えてOBBは、クロアチアやハンガリーなど9都市を結ぶ路線を運行中である。

 OBB以外にも、民間会社Snalltagetによるドイツのベルリンとスウェーデンのストックホルムを結ぶ路線や、フランス国鉄によるパリとフレンチアルプスを結ぶ路線がある。また北欧では、フィンランドのヘルシンキとサンタクロースの故郷といわれているロヴァニエミを結ぶサンタクロースエクスプレスが運転されている。

 DBの幹部は、ドイツとヨーロッパの百万都市を結ぶ13路線の運行を2024年までに実施すると表明している。さらに、スイス連邦鉄道(SBB)も、2025年までに10路線を開設する計画である。

 もちろん、ヨーロッパ各地を結ぶ新たな路線は、鉄道会社単独ではなく、各国の政府や鉄道会社が協調して進めている。それでは、なぜ今になって、ヨーロッパ各国が夜行列車を拡大する動きを見せているのであろうか。

夜行列車に訪れた転機とは

ナイトジェット(画像:オーストリア連邦鉄道)
ナイトジェット(画像:オーストリア連邦鉄道)

 実のところ、夜行列車はあまり利益が出ない、むしろ赤字の移動手段である。実際、DBは2016年にOBBへ列車を売却して夜行列車の運行から手を引いていた。当時、車両の更新および夜行列車の継続を模索していたが断念した経緯がある。にもかかわらず、再び夜行列車を復活させるのである。

 夜行列車に訪れた転機は、2017年に始まったとされるフライトシェイム(Flight Shame)である。日本語では「飛び恥」とも呼ばれており、気候変動対策として航空機の利用を避ける運動がヨーロッパ各地に広がっているのだ。

 各鉄道会社の幹部は、

「夜行列車は、環境問題解決に寄与している。二酸化炭素排出量は自動車より50%少なく、飛行機より80%少ない」

と、口をそろえて夜行列車拡大の意義を主張している。

 とはいえ、夜行列車の運行はコストがかかりすぎる。今後10路線の拡大を目指しているSBBの幹部でさえ、

「10路線の拡大により、毎年3000万スイスフラン(約40億円)の赤字になる」

と語っている。しかも、この赤字を補う資金計画は、現時点において全く見通せていない。

 ヨーロッパでは、夜行列車にフライトシェイムという追い風が吹いているようであるが、財政的には全く逆の状況である。利用者の環境意識の高まりとは裏腹に、財政面の懸念から事業縮小を余儀なくされる可能性はまだまだ残されている。