欧州の誤算 「クリーンな理想」が自国産業の首を絞めるまで【短期連載】「2035年エンジン車禁止」という幻影(1)
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エネルギーコスト増によるメリット消失」

エネルギーコストの上昇はBEVにとって逆風となる。2025年のEU平均電気料金は28.72セント/kWhで、最も高いドイツは38.35セント/kWhとなった。ドイツは2024年に再生可能エネルギー比率が約40%に達したが、なお20%近くを天然ガスに依存している。そのため、2022年2月のウクライナ情勢をきっかけに天然ガス価格が上昇し、電気料金は2022年以前より高い水準にある。エネルギーコストの増加はBEVのメリットを削ぐ要因となる。
BEVにとって再生可能エネルギーによる発電は必須であり、天然ガス発電からの脱却はエネルギーコスト安定化の観点でも急務である。EU統計局によると、2024年のEU総発電量に占める再エネ比率は46.9%だった。「Fit for 55」の政策効果が表れているが、国による差は大きい。デンマークは88.4%、チェコは15.9%にとどまる。
それでは、再生可能エネルギー比率が高まるとエネルギーコストが下がるのだろうか。実際にはそうではない。デンマークは風力発電が約50%を占め、再エネ比率はEUで最も高い88.4%に達する。しかし、電気料金は34.85セント/kWhでEU3番目の高さだ。再生可能エネルギーにはコストがかかるのである。
さらに銅価格も高騰している。2020年の年間平均70万200円/tに対し、2024年は143万5800円/トンと倍増した。風力発電の採算割れを引き起こし、BEVの生産コストにも影響する。銅価格高騰の背景には、グローバル・サウスの経済成長や、BEVや風力発電による銅需要の増加がある。
「Fit for 55」が進むほど、銅価格はさらに上昇し、エネルギーコスト増という悪循環が続く。車両価格と電気料金の上昇は、今後のBEV普及の足かせとなる可能性が高い。
EUの「Fit for 55」は壮大な社会実験である。政策を進める過程で、当初描いた未来とのズレが生じるのは自然な流れだ。EUは補助金依存、中国の影響、エネルギーコスト上昇という現実と理想のギャップをどのように解消していくのか。次回は、産業界の視点から「2035年エンジン車販売禁止」に異を唱えたドイツの動向を取り上げる。