欧州の誤算 「クリーンな理想」が自国産業の首を絞めるまで【短期連載】「2035年エンジン車禁止」という幻影(1)

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2021年にEUが掲げた「Fit for 55」は2030年までの温室効果ガス55%削減を目標とした政策パッケージだ。だが補助金依存や中国製EVの影響、電力・銅価格の高騰で現実は理想と乖離。EUのゼロエミッション戦略の光と影をデータとともに検証する。

中国製EVの脅威

フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長(画像:EU)
フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長(画像:EU)

「Fit for 55」はグリーン分野でのEUの成長戦略でもある。しかし、実際にEUの成長に寄与したのかは疑問である。

 2023年9月、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は、中国製EVが巨額補助金によって安く製造され、市場を歪めていると名指しで批判した。EU各国のBEV補助金によって中国が利益を得ているとの批判も根強い。BEV普及には常に中国の影がつきまとっている。次に、ドイツでのBEV登録台数トップ5メーカーの推移を確認する(ドイツ連邦自動車庁データより)。

●2022年
・TESLA:69963台
・VW:63206台
・HYUNDAI:32877台
・FIAT:29911台
・OPEL:29297台

●2023年
・VW:70628台
・TESLA:63685台
・BMW:40420台
・MERCEDES:36703台
・AUDI:30596台

●2024年
・VW:62108台
・BMW:42066台
・TESLA:37574台
・MERCEDES:33991台
・SKODA:25308台

中国メーカーのEVは目立った存在ではない。世界的BEVメーカーの比亜迪(BYD)でさえ、2024年の実績は2781台にすぎない。しかし、

「中国製EVが市場を歪めている」

という批判は間違いではない。欧米メーカーが中国で安く製造し、欧州で販売しているからだ。テスラは2022年3月、ドイツ・ベルリン郊外のグリュンハイデにギガファクトリーを稼働させたが、モデルYのみで年間最大50万台にとどまる。

 今後、価格を武器に中国メーカーがシェアを拡大する可能性もある。専門家のなかには、

「最大20%まで伸びる」

と試算する者もいる。近年、EU域内でのBEV生産は増え、当初描かれた成長戦略に近づきつつある。しかし、完成車だけでなく部品調達でも課題は残る。ノースボルトの破綻やポルシェのバッテリー製造子会社撤退は、中国製バッテリーとの競争での敗北を示している。オランダの半導体企業ネクスペリアも、中国系企業傘下として半導体危機に直面した。

 BEVの普及には完成車から部品まで中国の影がつきまとう。EUは普及と域内成長戦略をいかに結びつけるかが引き続き課題である。

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