地方交通の雄「十勝バス」 労使最悪&破綻寸前からの大復活はいかに成し遂げられたのか
労使関係最悪の会社が変化したワケ

経営破綻まで秒読み――。労使関係も最悪の会社に変化が訪れたのは、2008(平成20)年のことだった。
燃料費が増大でいよいよ経営難に拍車がかかった同社では、新たな利用促進策を実施する。社員が停留所の周りの住民を戸別訪問し、利用を呼びかける取り組みを始めたのである。
この時、住民に話を聞くと意外なことが分かった。住民はバスが不便だから乗らないのではなく
「乗り方が分からない」
と答えたのだ。
同社の野村文吾社長はこの時の記憶をこう記している。
「運賃がいくらなのか知らない。前後どちらのドアから乗ればいいのかも分からない。バスが不便なのではなく、乗るのが不安だったのだ。「この年になって、いまさら恥ずかしくて聞けない」と打ち明けてくれる人もいた。バスの乗り方を知らない人なんているわけがない-そう勝手に考えていたわれわれは、実は何ひとつ利用者のことが分かっていなかったのだ」(『北海道新聞』2015年2月22日付朝刊)
これを契機に、同社は乗り方の説明パンフレットを作成、時刻表も配った。その結果が2012年3月期の増収へと至ったのである。この成功をきっかけに、同社は地域に密着した営業を強化した。
「バスを使った物販」が登場

例えば、2021年12月から全国で初めて導入されたのが「マルシェバス」だ。
これは、バスの車内後方に帯広市内の百貨店・藤丸が扱う食品や生活雑貨など、約300点の販売スペースを設置、停車中に物販を行うというもの。
後方とはいうものの、乗車定員は従来の3割ほどなので、
「バスを使った物販」
というのが正確な表現だろう。
現在、このバスが運行しているのはJR帯広駅~大空団地間の大空団地線。帯広市郊外に位置する大空団地はスーパーがなく、買い物難民の発生している地域だった。
バスの運行は毎週日曜と木曜。利用者は1日平均50~60人になり、売り上げは平均5~7万円となっている(『北海道新聞』2022年1月27日付朝刊)。